時代の要請を受けて新概念が続々登場

その頃というのは、極論すると自滅しなければ、悪手を打たなければ成長できたのです。業界全体でWIN-WINだから、こっちも成長、あっちも成長というのが可能だった。そういう時代だったから競争、とりわけコンペティティブ・アドバンテージという概念がほとんどなかった。もちろん競争がゼロというわけではありません。存在はしていても、重視されていなかったということです。さまざまな環境変数の、たとえば法律などと同じくらいの存在感だった。

ところが80年代に入ると、わが社は「リーダー」なの、「チャレンジャー」なの、「ニッチャー」なのといった競争ポジションの話が出るようになった。さらに言えば、「わが社はがんばった。でも業績は落ちた。なぜだろう。ライバルはもっとがんばっていた」。そういうコンペティティブ・アドバンテージの話になってきたわけです。ですから、そのあたりの節目を理解しておくと、マーケティングの性質が大きく変わったことがわかる。これはとても価値があることです。

次に変わったのが90年代です。代表的な著作でいうと、デービッド・アーカーの「ブランド・エクイティ・マネジメント(Managing Brand Equity)」の初版が出た年に当たります。ブランド論そのものをクローズアップし、マーケティングの中でのブランドの重要性というのが一気に認知されてきたわけです。それまで4Pのプロダクトのサブだったブランドが、クローズアップされてマーケティングの中で4つのPと同じか、論者によってはブランドをマーケティングの核に据えようという人も出てきた。そういう意味で非常に大きい変化だったといえます。

『ブランド・エクイティ戦略』
デービッド・A. アーカー著、陶山計介・尾崎久仁博・中田善啓・小林 哲翻訳/ダイヤモンド社/本体価格3800円


ブランドについてはいろいろあって、コモディティ化の問題や、それ以上にMBAの限界という話が取りざたされます。MBAは70年代から80年代にかけて非常にもてはやされたわけですが、MBA的なマネジメントをしてしまうと、数字を上げなくてはいけませんから視野が非常に短期になってしまう。そのことが著しくブランドを疲弊させてしまったっという反省が出てきました。

株主に対してという話もありますが、もう一方ではブランドマネジャー自身の葛藤もあります。ブランドマネジャーは数字を残さないといけないからです。だから長期的にブランドを育成することは評価されなかった。自分の在任期間で数値を上げることこそが最大の目標だ、となる。そうなると有能な人であればあるほど、ブランド資産を棄損してしまいます。ゆえにブランド・エクイティというものが出てきた。

マーケティングがおもしろいのは、学問としての発展だけではなくて、さまざまな環境の変化であったり、時代の要請みたいなものを取り入れながら変わってきているということです。プラザ合意しかり、オイルショックしかり。これまで挙げたもの以外にも、顧客満足とか、リレーションシップといった概念がクローズアップされたりしました。最近でいえば、企業の社会的責任(CSR)やソーシャルメディアなどでしょう。世の中の変化があって、大きな変化があると、やはりマーケティングというのは変わらざるを得ないのです。

今後もスマートフォンの普及に伴って、コミュニケーションの形が猛烈なスピードで変化していく影響が出てくるでしょう。すべてがスマホに集約されてきていて、最近ではパソコンもいらないという人が出てきているほどです。これは当然、消費行動を変えます。買い方も変えるし、情報の取得も変えている。するとそれが今度はマーケティングに、ビジネスがそれに反映される。