フランスのエリートは大学には行かない

フランスでは、バカロレア(中等教育修了資格試験)取得後に進む高等教育機関として、大きくわけて大学とグランゼコールの2つが存在する(他にも高等教育機関はあるが、ここでは省略する)。上述した高等師範学校はグランゼコールの1つである。

大学は分かるが、グランゼコールとはいかなる教育機関なのか。フランス独自の高等教育機関であるグランゼコールについては、フランスの教育制度に興味があったり、フランスに在住経験、留学経験があったりしない限り、日本では知る人はほとんどいないと思われる。

筆者はフランスのエリート形成について研究しているのだが、自分の研究について友人に説明しようとすると、「フランスのエリートはソルボンヌ大学に行くんでしょ?」とよく聞かれる。なぜか日本ではソルボンヌ大学=東大のような、入ることが難しい大学というイメージがあるようだが、それは間違っている。ソルボンヌは確かに名門大学だが、難関大学ではない。

そもそも、フランスでは大学に入ること自体は、学部や所在地などによって多少の差こそあれ、それほど難しいことではないのだ。だいたいにおいて、フランスでは大学ごとの独自の入学試験というものは存在しない。だが一方で、フランスには難関校や受験戦争がないのかというとそうではない。フランスの成績優秀者が目指す一部の名門グランゼコールに入るのはかなり難しく、その競争は厳しいのだ。

パリ・ソルボンヌ大学
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土木学校から始まったグランゼコール

グランゼコールは、高等教育機関であるが、研究機関というより高度職業に結び付く専門教育機関であり、現在フランス国内に200校以上ある。その全てが難関校と呼べるレベルではなく、名門と呼ばれる難関校は上位15校程度であるが、これらは少数精鋭のエリート養成校と言えるだろう。

グランゼコールは18世紀に創設された国立土木学校が始まりであり、その後、国力を増強するために理工系を中心にいくつもの学校が設立されていった。上述した高等師範学校や、理工系のエコール・ポリテクニーク、行政系のINSP(旧ENA)、商業系のHECなどが特に難関校として知られる。いずれも入学定員は少なく、少数精鋭の教育が行われる。そして、卒業後、官民問わず上級職に就き、活躍することを期待され、大学出身者に比べ、就職においてかなり優遇されることが多い。

では、グランゼコールに入るためにはどうすればよいのか。実は、ほとんどのグランゼコールはリセ(日本の高等学校相当の中等教育機関)を修了したのち、そのまま進学することはできない。グランゼコールを目指す者はまずグランゼコール受験準備級(いくつか通称があるが、本稿では以下プレパと呼ぶ)に進学し、そこで2年から3年の受験準備期間を経てグランゼコール入試に臨むことになる。

プレパへの入学の可否は、2018年から始まったParcoursup(パルクールシュップ)という高等教育機関への登録プラットフォーム上に提出する志望動機書とリセにおける成績や内申などの書類審査によって決まる。つまり、プレパごとの試験があるわけではないため、あるプレパに入るためにガツガツと受験勉強をする必要もなく、日本のように個人的に学習塾などに通う必要もない。