「飯田商店」の厨房には「お客様は来てくださらないもの」という言葉が掲げられている。行列の絶えない人気店になった今でも、店主の飯田将太さんが開店当時の苦しさを忘れることはけっしてない。飯田さんは「何よりも辛かったのは、お客さまが来ないこと。最初の半年は、ゼロの日が何日かありました」という――。(第3回/全4回)

※本稿は、飯田将太『本物とは何か』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

飯田将太さんにとって「おいしい麺とは何か」は永遠のテーマ。
写真撮影=合田昌弘
飯田将太さんにとって「おいしい麺とは何か」は永遠のテーマ。

お客さまが自分のつくったラーメンを食べていることに感動

僕は、今でも営業中に感動することがある。

目の前にお客さまがいてくれる。ラーメンを食べている。「このラーメンは僕がつくったんだよな、すげえっ」。僕がラーメンつくっているんだ、それをお客さまが食べているんだ、ということに感動している自分がいる。

僕は人に何かつくって食べさせることが本当に好きなんだなとも思う。これは性分だ。だから、従業員のまかないも、昼は今でも僕がほとんどつくっている。ラーメンの試作でも、始めると何時間も続ける。

いま振り返ると、25歳のときに、家業の1億円の借金返済のために、叔父が営むチェーン店「ガキ大将ラーメン湯河原店」の店主となってラーメンの世界に入り苦労したこと、佐野実さんの「らぁ麺」に出会えたことには感謝しかない。

「支那そばや」佐野実さんに魂が覚醒する

チェーン店の枠組みの中で、自分が満足できるものを出せていないジレンマに苦しんでいたとき、僕は「支那そばや」さんのラーメンに出会うことができた。佐野実さんがつくる麺のおいしさに感動した。これを自分でやりたい。支那そばやさんのようなラーメンをつくれる人間になりたいと思った。

僕は、料理をして人に喜んでもらうことは大好きだけど、支那そばやの佐野実さんが僕に感じさせたことはそんなレベルではなかった。僕の人生を変えてしまった。

じわじわじわっーと、なんと言っていいかわからないけど、魂が覚醒するようなすごい気持ちになった。それは料理の究極だと思う。いい意味で、人を変えてしまう。そういう料理をつくれる人間になりたいと心底思った。

この支那そばやの佐野実さんへの憧れ、尊敬、畏敬、あがめるような気持ちが、僕をラーメンに本気で向かわせた。だから、とにかく佐野実さんの行動をたどった。

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