追いかける立場だから幸せ
佐野さんからはとうとう教わることができなかった。
でも、それで良かったといまは思っている。教わらなかったからこそ、誰よりも佐野実さんのことを調べた。
教わらなかったからこそ、佐野実さんだったらどう考えるのかと、ずっと追求していける。麺の食感や味わいに、常にその答えを求め続けた。教わらなかったからこそ、これでよしという線引きがない。佐野実さんも誰かに習ったわけではなかった。自分は追いかける立場だから幸せだ。
結局、佐野実さんとちゃんとお話ができたのは、最初の電話だけだった。
怖くて話ができなかった…
実は電話で話した後、飯田商店を開店する前年の2009年の東京ラーメンショーに、佐野JAPANが出店されていて、3時間の行列に僕も並んだことがある。その先に佐野実さんはずっと立っていらした。少しずつ近づいていくと、だんだん怖くなってきた。
鬼か怪獣のように見えた。3時間も並んでいるのに逃げようかなと思うくらいの迫力。ラーメンを受け取って、「いただきます!」と大きい声で言ったら、「おう、礼儀正しいな」と言われた。それ以上は怖いから「失礼します……」と言ってすぐに立ち去った。
食べ終わってから100mくらい離れたところで、ずーっと佐野実さんを見ていた。本当は、自家製麺を始めていると話をしたかったけど、怖くて言いにいけなかった。
