フランスは大学よりも格上の「グランゼコール」という教育機関でエリートを養成している。パリ第8大学客員研究員の山﨑晶子さんは「入学試験はきわめて難解で、日本の大学受験とはまったく異なる。それはエリート養成の考え方そのものが、日本とは違うからだ」という――。
パリ高等師範学校
写真=AFP/時事通信フォト
パリ高等師範学校

「平等」「原因」などのひと言問題が出題されるグランゼコール

「平等(2008年)」「模倣(2010年)」「原因(2013年)」「説明する(2015年)」「責任(2018年)」「科学と客観性(2020年)」。これらは、「グランゼコール」と呼ばれるフランスの高等教育機関「高等師範学校」(エコール・ノルマル・シュペリウール)の哲学の筆記試験の問題である。ちなみに問題文の上に「計算機使用不可」と注意書きがあるが、まさか計算機を使う人はいないであろう。

こんなほぼひと言だけの出題に対し、一体どう回答すればいいというのか。

実際、2015年に出題された「説明する」という1動詞のみの試験問題に対して、面食らった一部の受験生たちはSNSで「今までの自分たちの努力はどこへ?」などと騒いでいたようだ。しかし、この学校に合格するような優秀な受験生たちにとって、これは手も足も出ない問題ではない。

受験生たちは6時間という試験時間の中で、このひと言のみのシンプルすぎる問題について論じていく。上記のように面を食らってしまう受験生もいるものの、合格するような優秀な受験生たちは、これらの問題を前にしてしばし逡巡しゅんじゅんすることがあっても、適切に論じることができるのだ。

日本のような暗記型の受験対策は通用しない

この「説明する」というシンプルな出題は、回答の自由度がかなり高いように思われるが、もちろん何について論じてもいいというわけではない。グランゼコール受験準備校(後に詳述する)における1年間で、哲学の学習指導要領で提示された「科学」というテーマについてさまざまなことを学んだうえで、答案上で、関連した文献を正確かつ具体的に示したり、具体的事例を示したりしながらそれらを詳細に分析できたような答案が高く評価されたようである。

高等師範学校はいわゆる「大学」ではないので、単純に日仏比較はできないながらも、学習内容の暗記、マークシートによる選択式回答などで対応できることが多い日本の大学受験問題と比較すると、これらの試験問題は、問われている内容も形式もかなり異質であるように思われるだろう。

では、フランスの受験生たちがこうした問題に対応できる理由、すなわち高等師範学校をはじめとする難関エリート校への受験対策はいかに行われているのだろうか。その前に、ここで日本ではほぼ知られていないフランスの高等教育の仕組みについて説明する必要があるだろう。