複数の米情報筋によれば、プーチンは将軍たちに激怒している。
だが最大の失態はプーチン自身が4方面作戦――北は首都キーウ、東はウクライナ第2の都市ハルキウ(ハリコフ)、南東はドンバス地方、南西は港湾都市オデーサ(オデッサ)――に固執した点にある。
短期決戦を前提に戦線を拡大したプーチンには長期戦に備える戦略がなく、代替策もなかった。
今のロシア軍はミサイルの在庫が手薄で、発射数を増やすことはできない。ウクライナ領内へロシアの爆撃機を飛ばすのも難しい。ウクライナの防空システムがしっかり機能しているからだ。
ロシア地上軍は戦力の3分の1以上を失い、攻勢に出る余力はない。ロシアとて無限の戦争能力を持っているわけではない。それでもプーチンは軍隊を前へ、前へと動かす。これは敗北への道だ。
ウクライナ側の損失も大きいが、今やロシア軍の7倍の兵力を動員できる。ウクライナの兵力は、報道されているよりもずっと多い。しかも新規の志願者が殺到している。
欧米にはまだ約20年前のイラク戦争時代の戦争観が残っていて、ウクライナ側の優位性を見落としがちだが、今の戦争は量より質の勝負。数字は当てにならず、ものをいうのは最新兵器の威力だ。
軍隊はたくさんの武器、たくさんの爆弾を欲しがるものだが、少数でも精度の高い兵器を用いて標的を正確に攻撃できれば、より大きな戦果を得られる。この点でウクライナはロシアの上を行く。
「西側の、そしてウクライナの決意を砕けると考えたプーチンは間違っていた」とCIAのバーンズは言う。そして計算違いに気付いたプーチンは「目的を縮小した」とみている。もはやウクライナ全土の支配はもちろん、ドンバス以遠の領土を奪うつもりもないという見立てだ。
開戦からわずか3週間で、プーチンは首都キーウ制圧を断念した。そして現場の指揮官を次々と解任し、入れ替えた。複数の米政府筋によれば、プーチンは情報機関のトップや国防相とも争い、異論を唱える者を遠ざけている。
そして現場の指揮官をさらに混乱させた。南部戦線の拡大にこだわり、ウクライナの黒海沿岸部の制圧を命じたことで、軍隊はドンバス地方の占領地確保という本来の任務に集中できなくなった。
これでプーチンと制服組の溝が広がったと、英軍情報部のジム・ホッケンハル中将は8月初めに指摘している。