「予期せぬ妊娠への支援」が初めて少子化社会対策大綱に登場
1990年以降、日本政府の少子化対策は、主に「現金給付」と「保育所などの整備」の2本柱で進められてきた。
最初は、「子供を持つ親」「共働き夫婦」への支援が少子化の主たる支援対象だったが、ここ数年は、若者の非正規雇用、未婚化・晩婚化といった結婚前からの支援や、男性の働き方や育休取得といった日本の慣行や文化といった側面において少子化問題とリンクして議論がされており、もはや当たり前のこととなっている。
であるならば、予期せぬ妊娠問題も少子化対策の中で、1つの柱として、議論してもいいのではないか。これまで中絶をめぐっては、日本は宗教上の理由ではなく、性の問題を公に語ることをタブー視する保守と、女性の権利としての中絶権を主張する左派との机上の論理で議論されてきた。実際に、「産みたいけれど、産めない」状況下に置かれている当事者の女性たちの声はなかなか行政や政治に届いていない。
そうした意味で、2020年に発表された少子化社会対策大綱に初めて「予期せぬ妊娠等に悩む若年妊婦等が必要な支援を受けられるよう、NPOなどとも連携しながら、取組を進める」との一文が入ったことは画期的だった。
少子化対策の中に、予期せぬ妊娠への対応が「文字化」されたのだ。しかし、2020(令和2)年の統計でもわかるように、現実は、全体の14万1433人のうち、25歳以上の件数が8万2499件と半分以上を占めている。一般的なイメージでは、予期せぬ妊娠に悩んで中絶を選択しているのは、避妊知識が乏しい、もしくは避妊行為を怠った中高生を中心とした10代に多いとの見方もあるが、中絶を決意するのはそうした若年妊婦に限らないのだ。
中絶をする理由として多いのは「経済的な余裕がない」と「相手と結婚していないこと」(それぞれ約2割)となっている。経済的理由に対しては、例えば、多子世帯へのサポートや養子縁組の充実などを図っていく必要がある。一方、「相手と結婚していない」ことを理由とする場合、事情は個々によってさまざまだろう。
そこで提案したいのは、年代にかかわらず、安心して産める環境という意味で「内密出産に向けた環境整備の必要性」という項目をしっかりと立てて国会での議論を促してほしいということだ。
安倍政権以降、日本政府にとって、「少子化対策」は国難の一つと位置付けられ、安倍政権では保育所の整備、幼児教育の無償化、菅政権では不妊治療の保険適用などが政策として矢継ぎ早に打ち出されてきた。
岸田政権の主要政策にも「少子化問題」は位置付けられており、人工妊娠中絶がおよそ15万件の日本において、「内密出産に向けた環境整備」を少子化問題の一つとして扱うことは、少子化社会対策大綱にも記された予期せぬ妊娠への支援と結びつくものであろう。