内密出産は政府の「ガイドライン」だけでいいのか?
2022年2月、熊本市の慈恵病院が取り組む「内密出産」に対し、熊本市長の職権で戸籍を作成し、内密出産の手続きに沿って生まれた子供の戸籍が国内で初めて作成される運びとなった。しかし、日本には各国にある内密出産に関する法律は存在しない。8月下旬に政府は速やかにガイドラインを発出する方向を打ち出した。
ドイツやフランスおいては、匿名での出産がすべての医療機関で認められ、養子縁組さらに、子どもの知る権利についても保証がされている。米国においても、匿名での出産が各州で認められている。
日本は予期せぬ妊娠の責任を女性だけに負わせている。そして、生まれてきた子供の権利も定まっていない中、果たしてガイドラインだけで、この問題を片づけていいのか。
慈恵病院の医師たちは、少しでも多くの子供の命を救いたいとの思いで、「こうのとりのゆりかご」を設置してきた。しかし、生まれてくる子供にとっても、不安な気持ちで出産する女性にとっても、今の制度では不十分である。
中絶をすべきかどうかを悩む多くの女性が身近な病院で相談することができ、希望すれば匿名での出産を可能とする。また、養子縁組を早期にできる仕組みを作る。産まれてきた子どもは成人になると同時に出自に関する情報を得ることができる。そういった法律があって初めて、安心して女性も出産ができ、子どもも健やかに育つことができる。
望まない妊娠を防ぎ、安心して産むことのできる日本へ
9月10日、和歌山県白浜町のホテルの共同スペースのごみ箱から布にくるまれた生後間もない赤ちゃんの遺体が発見された。昨今しばしば耳にするこうした乳児遺棄事件の報道を見るたびに、心が痛むと同時に、彼女たちを助ける手立てがない行政や政治に対し、何かしないといけないという強い思いに駆られるのは筆者だけではあるまい。わが子を捨てる無責任な行動を非難する声もあるが、なぜ女性だけがこの不利益を受けなければならないのか。そんな怒りを覚える人も多いに違いない。
そうした悲劇を生まないためにも、予期せぬ妊娠・望まない妊娠を防ぐ仕組みをより拡充することも国の役割であるはずだ。
緊急避妊薬は、これまでは病院での対面の診察を経て処方されていたが、コロナ禍でオンライン診療が解禁され、医師によるオンライン処方で即日配達できるようになった。現在は、薬局で購入できるようにすべきだという意見とそれに慎重な医師会とで意見が割れているが、そう遠くない未来に薬剤師の適切な説明の下、日本でもフランスのように、緊急避妊薬を薬局で購入できるようになる日も来るだろう。
性教育のあり方にしても、日本はまだまだ不十分である。秋田県や富山市では、医師会が協力し、性教育をしっかりすることで、人工妊娠中絶件数が減少しており、正しい知識を持つことが、望まない妊娠を防いでいる。