地域活性化に不可欠な3要件とは何か

東京大学社会科学研究所(東大社研)は、06年から希望学釜石調査に取り組んでいるが、筆者(橘川)は、同調査に最初から参加している。希望学釜石調査の09年までの研究成果は、東大社研・玄田有史・中村尚史編の『希望学2 希望の再生 釜石の歴史と産業が語るもの』(東京大学出版会、09年)と『希望学3 希望をつなぐ 釜石からみた地域社会の未来』(東京大学出版会、09年)という2冊の書物にまとめられており、筆者は、『希望学2』に「地域経済活性化と第三次産業の振興」と題する論稿を寄せた。また、筆者は、PRESIDENT 09年7月13日号のこの欄に、希望学釜石調査の内容を伝える「三重苦の地方を救う教書『希望学』とは」と題する文章を載せたこともある(http://president.jp/articles/-/2455)。

「希望学」とは聞きなれない言葉であるが、いったいどのようなものなのか。希望学とは、「希望を社会科学する」を合言葉に、希望と社会との相互関係を考察しようとする、新しい学問のことである。経済学、法学、政治学など従来の社会科学の多くの分野では、個人が希望を保有していることを前提に、その希望を実現すべく行動することを、社会行動分析の基本的な視座としてきた。

しかし、現代社会、とくに最近の日本では、希望は与件であるという前提自体が崩れつつある。希望学は、この「社会科学の危機」とも言える現象に、正面からメスを入れようとしているのである。

東大社研が実施してきた希望学釜石調査では、これまでのところ、地域活性化の要件として、(1)ローカル・アイデンティティの構築(2)希望の共有(3)地域内外でのネットワーク形成 の3点を析出した。このうち(1)の「ローカル・アイデンティティ」とは、「地域らしさ」「ふるさとらしさ」ということであり、今回の震災復興でもこれを再構築することが最も重要だと考える。