11年12月、釜石市は、表1のような内容の釜石市復興まちづくり基本計画「スクラムかまいし復興プラン」を策定、発表した。
釜石市は、しばしば「鉄とさかなの町」と表現される。この言葉は、釜石のローカル・アイデンティティ、つまり「釜石らしさ」を端的に表している。
釜石市には、東日本大震災以前から、地方都市の再生につながる注目すべき動きがいくつかみられた。そのおもなものとしては、「鉄とさかなの町」にふさわしい、次の2点をあげることができる。
第一は、89年の新日本製鉄釜石製鉄所の高炉停止後も、製造業が健闘していることである。新日鉄は、高炉停止後も、自動車用高級線材の北日本における生産拠点として、釜石製鉄所の操業を継続している。生産規模は縮小したとはいえ、欧米の多くの鉄鋼メーカーが高炉停止と同時に工場そのものを閉鎖した事実と比べると、この新日鉄の措置は、地元経済への打撃に歯止めをかける意味合いをもつものと言える。また、釜石市や新日鉄は、釜石製鉄所の合理化が進行した80年代から釜石への企業誘致に力を入れ、合計24社もの誘致を実現してきた。そのうち東日本大震災までに約半数が撤退したが、残存した半数だけでも約2000人の雇用を創出した。
釜石市でみられる地方再生への動きの第二は、農林水産業に立脚した新しい動きが始まっていることである。例えば、釜石市に本社をおく水産加工メーカー・小野食品は、全国展開する大手スーパーの店頭で自社ブランド(「三陸おのや」)による直接販売を実施するなどして、着実に業績を伸ばしている。同社は、三陸産や北海道産の原料の鮮度を生かした加工(手作り感があり、鮮度の保持にすぐれた新しい包装システムを使うワンフローズン焼魚・煮魚など)を釜石工場で遂行し、リードタイムが短く、競争力が高いビジネスモデルを構築しつつある。また、釜石には、農業関係者、漁業関係者、民宿関係者などが協力して結成した、A&Fグリーンツーリズム実行委員会が存在し、草の根的なグリーンツーリズムが活発である。A&FのAはAgriculture(農業)、FはFishery(漁業)を、それぞれ意味する。
第一の動きは「鉄の町釜石」に立脚しており、第二の動きは「さかなの町釜石」につながる。そして、ここで重要な点は、先に見た震災後の釜石市の「復興まちづくり基本計画・中間案」にも、この2つのローカル・アイデンティティが継承されていることである。「基本目標5 ものづくり精神が息づくまちづくり」と「スクラム6 新産業と雇用の創出」は、「鉄の町釜石」に立脚した従来からの活発な企業誘致活動をさらに推進しようとするものであり、「スクラム8 食を支える地域産業の展開」では、「さかなの町」にふさわしく水産関係のテーマが中心を占めている。
東日本大震災の被災地における産業復興は、各市町村のローカル・アイデンティティをふまえたものでなければならない。釜石市の事例は、このことを雄弁に物語っている。