本というメディアが愛され続けている理由

「本には著者の思想が現れやすい」という話をしましたが、このことは読み手の私たちの好奇心やモチベーションを高めることにも役に立ちます。あなたも、自己啓発本を読んで、強くやる気を刺激されたことがないでしょうか。自己啓発というジャンルがなぜ本という形式で最も普及しているかというと、著者の思想や、ちょっとスピリチュアルな表現を使うと「心のエネルギー」が乗りやすいからです。フラットな表現をすると、著者の思いや感情が文章全体を通して伝わりやすいとも言えるでしょう。

セミナーも同じように感情やエネルギーの共有感からモチベーションを上げやすいですが、情報の質や量のバランスは本のほうが優れているでしょう。「本を読んで人生が変わった!」という経験のある人は多いですが、「ブログ記事1つ読んで人生が変わった」「SNSのこの投稿を読んで人生が変わった」という人は、本に比べるとあまり聞きません。

読後にモチベーションが高まり、かつアクションにつながるような適切な情報もある。その2点が揃っているのが、本の持つ優位性です。これも、長い歴史の中で本という形式が愛され続けている理由の1つと言えます。

壁一面の本棚
写真=iStock.com/Pawel_B
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ネット記事ばかりを読む人が陥りがちな思考

ネット上で情報を調べると、比較的短い数百文字~長くて3000字程度の記事を目にすることが多いでしょう。TwitterなどのSNSに至っては、もっと短文です。そのような文章を短時間で目まぐるしく行ったり来たりするのが、Webサイトの情報収集の一般的なパターンです。場合によっては、気になったWeb記事に貼られた外部サイトへのURL(ハイパーリンク)をクリックして、気がつけば本来調べていた情報とは異なるような情報を読んでいた、という経験はだれにもあるでしょう。

このような文章ばかりに触れていると身体に染み込んでしまう思考の癖を、私は「ハイパーリンク的思考」と呼んでいます。インターネットのハイパーリンク=外部URLへのリンクを次々クリックするように、短期間で答えを探し、目まぐるしく変化するような思考です。

このような思考は、答えが決まっていてすぐに調べられるようなものに向き合うときには向いています。

また、大量の情報を短期間に浴びることで、思考に化学反応を起こす可能性も秘めています。一方で、答えがなかなか導き出せない問題を考えるときには向いていませんし、思考があちこちに飛んで集中力に欠けるタフさのない思考でもあります。近年、本を読まずにネットに多量に触れている人には、このようなタイプの思考法の人が増えているように思います(それ自体が決して悪いわけではなく、そういった傾向があることだけにとどめておきます)。