自殺リスクを高める8つの要因
身近な人が自殺で亡くなったこともある。私が自殺をテーマに取材をする前の1994年のことだ。長野県の新聞社に入社してすぐに知り合った男性が、自動車内で排ガス自殺した。周囲の人の話によると、1週間前、男性は、借りたものを返しに知人に顔を見せに来ていた。すでにそのとき、自殺を考えていたのだろうか。
「自殺」をテーマにした取材をするようになって、取材した人が実際に自殺、もしくは自殺の疑いで亡くなっている。当初、私は、言語化できる相手がいれば自殺しないのではないか、という仮説を立てていたが、正しくなかった。今となっては当たり前のことだ。
例えば、いじめや虐待、ハラスメントなどは、すぐには問題解決ができない。すぐに悩みが消えるわけではない。具体的なソーシャルワークにつなげても、メンタルヘルスのケアやサポートがなければ、自殺のリスクは軽減しない。一般に、リスク要因が多ければ、自殺リスクが高いと言われている。
その要因として、
2、精神疾患の既往(躁うつ病〔双極性障害〕、人格障害、アルコール依存症、薬物依存など)
3、サポート不足(未遂者、離婚者、配偶者との離別、近親者の死亡を最近経験)
4、性別(自殺既遂者:男性〉女性 自殺未遂者:女性〉男性)
5、年齢(年齢が高くなるとともに、自殺率が上昇する)
6、喪失体験(経済的損失、地位の失墜、病気や外傷、近親者の死亡、訴訟など)
7、自殺の家族歴(近親者に自殺者が存在するか?)
8、事故傾性(事故を防ぐのに必要な措置を不注意にも取らない)
などがあげられているが(※3)、取材実感とも似ている。
(※3)高橋祥友『自殺のサインを読みとる』講談社、2001年、87頁
「『死にたい』と言っている人は、実際には死なない」は迷信
私が取材をした中で亡くなった約40人の共通点をあげてみる。
自殺未遂(自傷行為を除く)を3回以上繰り返していたのは8割。この中で10回以上繰り返した人は2割いた。さらに言えば、30回以上、繰り返した人もひとりいた。常に「死にたい」と言っていた人も9割いた。
「『死にたい』と言っている人は、実際には死なない」というのは迷信だと言われている。少なくとも、取材経験から考えても、迷信だと断言できる。
「死にたい」「さよなら」「もう死にます」というメールやLINEが届く。また、ツイッターなどのSNSでつぶやく人もいる。そうした後に、自殺のリスクが高い行動を取ったり、実際に亡くなってしまう人もいた。取材した中で、自殺で亡くなった人の半数は、死ぬ直前に、私を含む誰かに予告めいたメールやLINEを送っている。深夜に自殺予告のメールが届いたことがあった。
その女性は、それまでにも自殺をほのめかすことがあった。朝起きて、メールを読むと、飲み合わせや量次第では亡くなってしまいかねない薬の名前が羅列してあった。すぐに連絡を取ったが、返事がない。しばらくすると、その女性の知人から連絡があり、亡くなったことを知った。
その女性がメールをしてきたときに、私に何かできたことはなかったかと思い悩み、知人の精神科医に連絡を取った。そのメールが送られてきたときに薬を飲んだことを前提にしても、助かった可能性が低いほど、飲み合わせが悪いものだったと聞いた。それでも、「メールに返信をしていれば」「すぐに電話していれば」と今でも思うことがある。