「自傷行為は、死ぬための行為ではない」と考えられていたが…
私が油断したひとつは、その女性は「自傷行為」を繰り返していたこと。1990年代後半から2000年代にかけて、「自傷行為は、死ぬための行為ではない。生きるための行為だ」という意味づけが強かった。私の当時の実感も、その言説に近かった。
自傷行為経験者の多くは、自殺未遂として行っていない。自傷行為はそれ自体、自殺リスクは低い。しかし、取材をしていて、自殺で亡くなった人のうち、「自傷行為」の経験者は9割。このうち、リストカットは8割だ。繰り返すことで死に近づくこともある。
精神科の通院歴の有無についてだが、取材後、自殺で亡くなった人の全員が、精神科への通院歴があった。もちろん、バイアスがある。それは、男性2割、女性8割と、ほとんどが女性であること、年齢も40代以下がほとんど、つまり男性、中高年が少ない。また、私の取材対象は精神疾患をカミングアウトしている人が多い。一度計画をした自殺を実行しているように見える場合もあれば、背景が見えず、なぜ自殺するのかわかっていない場合もある。
取材経験からは、女性のほうが、死にたいと思うきっかけとなる出来事から、自傷行為や自殺未遂までのプロセスには物語的な流れがある。一方で、男性の傾向として、出来事があったとしても、自殺願望までの流れとは結びつかず、物語化されていない場合も少なくない。
自殺者が抱える10の共通点
どんな自殺であれ、共通するものがある。全米自殺予防学会の創設者で、心理学者のシュナイドマンが、10の共通点をあげている(※4)。
2、自殺に共通する目標は、意識を止めることである。
3、自殺に共通する刺激は、耐え難い心理的な痛みである。
4、自殺に共通するストレッサーは、心理的要求が満たされないことである。
5、自殺に共通する感情は、絶望感と無力感である。
6、自殺に共通する認知の状態は、両価性である。
7、自殺に共通する認識の状態は、狭窄である。
8、自殺に共通する行動は、退出である。
9、自殺に共通する対人的行動は、意図の伝達である。
10、自殺に共通する一貫性は、人生全般にわたる対処のパターンである。
自殺を企図する側にとっては、自殺は、論理的に説明できない行為とはいえない。一方、自殺について理解できないと思う人もいるだろう。衝動的な行為という面のみを見て理解しようとする人もいるかもしれない。選択の結果だと思う人もいるだろう。ただし、苦痛から逃れ、一定の解決をしたいという心情は自殺を企図しない人とも共通する。
ストレスがかかったとき要求が満たされないというのも誰にでも起きうる。愛や憎しみ、希望と絶望といった「両価性」も、一定程度、誰もが感じている。
(※4)エドウィン・S・シュナイドマン『シュナイドマンの自殺学 自己破壊行動に対する臨床的アプローチ』高橋祥友訳、金剛出版、2005年、36頁
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