ヒットを飛ばすライバル企業に追いつき、追い越すにはどうすればよいのか。高千穂大学の永井竜之介准教授は「相手の長所を評価できる良い嫉妬がヒット商品を生み出すカギとなる」という――。

「良い嫉妬」はビジネスを成功させる

意外なキーワードから考えてみることで、これまで気付けなかったヒットの仕掛けや成功理由が見えてくる。今回は「嫉妬」という視点から、エンタメ事例とビジネス事例のマーケティングの裏側について紹介しよう。

嫉妬というと心理学の話に思われがちだが、「働く人・組織の嫉妬」はマーケティングの研究テーマだ。嫉妬と聞くと反射的に、自分から遠ざけたい悪い感情に思えるだろう。しかし、じつは嫉妬には「悪い嫉妬」と「良い嫉妬」の2種類あり、「良い嫉妬」はビジネスを成功させるカギになってくれる存在だ。

嫉妬は、「自分よりも上にいる」と感じる相手の「自分にはない何か」に対して抱く感情である。嫉妬の解消法の1つは、上にいる相手が失敗して、自分よりも下に落ちてくるように願うことだ。もっと直接的には、相手が失敗して落ちてくるように邪魔をして足を引っ張る行動に出る。これが、嫉妬が悪い感情とされてきた最大の理由だ。この「悪い嫉妬」は攻撃性に繋がり、自分も周囲も不幸になりやすい。「誰かに嫉妬されたらどうしよう」という恐怖心から、人々が努力や成功を求めなくなり、社会全体の発展がストップしてしまうため、嫉妬は諸悪の根源とさえ言われた。

「良い嫉妬」はビジネス成功のカギとなる

一方、近年の研究で指摘されてきているのが、人・組織の起爆剤になる「良い嫉妬」の重要性だ。自分と上にいる相手の差が埋まることを願う嫉妬において、相手を下に落とすことで差を埋めようと考える「悪い嫉妬」に対し、「良い嫉妬」は自分を上に高めて差を埋めようと考えることで、成長するエネルギーとなり、良い結果を生みだしてくれる。この「良い嫉妬」は、憧れている人に追いつこうとしたり、憧れの物を入手しようとしたりする積極的な欲求だ。良い嫉妬は、上を目指して努力する達成モチベーションとなり、経済をより良くする原動力になってくれる。職場に良い嫉妬があれば、働こうとする意欲と活発な競争が生まれ、仕事のパフォーマンスを向上させる。ビジネスを成功に導くカギとなるのだ。