オレンジの輸入自由化を思い出してほしい
仮に国内の小麦価格が国際相場並みに上昇し、パンや麺類の原材料費が大幅に上昇したとしよう。当然、企業やお店はそれを製品価格に上乗せする。ギリギリの企業努力もするだろうが、それでも吸収できなければ値上げするしかない。当然、値上げすれば、販売量に影響するだろう。高くて買えないという人が出てくるからだ。その結果、小麦の使用量は減り、価格は下落する。そうなるとどこかのタイミングで需要が増えてくるわけだ。これが経済原理、市場原理である。
政府が補助金でそこに介入すると、市場が歪む。価格を強引に据え置けば需要が減らないから価格も下がらない。企業がコストを製品価格に転嫁するタイミングも難しくなる。
もともと、小麦のような「国家貿易」は極めて歪なやり方だ。国産小麦に多額の補助金を出しているのは輸入品に勝てないと思っているからだ。農家がいくら努力をして高品質で安全安心な小麦を作ろうとしても海外に輸出して国際競争力を持つ商品になっていくことはできないだろう。
かつて、オレンジの輸入自由化で、日本のみかん農家は全滅すると言われたものだ。だが、国際競争に晒された結果、品質で輸入品と戦えるさまざまな高級柑橘類が国内で育った。補助金漬けになっている麦や米も、品質で勝負できるものはあるが、戦いに踏み出せない。
補助金を出せば財政が悪化し、円安に拍車がかかる
ガソリンも小麦も、補助金は一時的な激変緩和対策というのが建前だ。現状は、円安が一服し、国際市況もやや落ち着いているので、危機感は遠のいているが、マーケットは生き物。いつ再び動き出して、猛烈な円安、猛烈な価格上昇が始まらないとも限らない。そうなった時に、政府は資金を注ぎ込んでマーケットに勝てると思っているのだろうか。
もともと日本は巨額の財政赤字の国である。補助金を出し、しかもそれを借金で賄えば、さらに財政が悪化し、円安に拍車がかかるだろう。円安で価格が上昇している国際市況商品の価格を引き下げようと財政を使えば、さらに円安に拍車がかかり、円建ての国際商品価格が上昇するというジレンマに陥ることになりかねない。
世界は物価上昇(インフレ)を抑えるのは中央銀行の役目で、金利の引き上げなど金融引き締めを行うのが常道だ。日本銀行が政府の子会社だというのなら、今こそ、インフレ対策に金利を引き上げるべきで、政府が財政で価格を引き下げようとするのは邪道だろう。