「1日数時間は、顔を合わさない」という距離感が必要

では、続いて、老後を円満に暮らすための、「妻」の心得について、お話ししましょう。

リタイア後は「夫もしんどい」ことを知っておく

ご承知のように、平均寿命は男性のほうが短く、また日本では夫のほうが年上であることが多いため、夫婦の間では、夫のほうから先に老いはじめます。60代以降は、男性ホルモンの減少から心身に変調を来す人が増えるほか、生活習慣病にかかって肉体的にしんどいという人もいます。あるいは、老人性うつ病の予備軍も増えてきます。夫も夫なりに、いろいろとつらいのです。

老後の夫婦関係には“助け合い精神”が必要です。「困ったときはお互い様」くらいの優しさはもって、付き合いましょう。

夫が家にいるのなら、自分が外に出る

老後、夫がいつも家にいるようであれば、それを嘆くばかりではなく、自分が外に働きに出てはいかがでしょうか。大人同士がひとつ屋根の下で暮らすには、「1日数時間は、顔を合わさない」という距離感が必要です。加えて、働けば、老後資金をめぐる不安も軽減します。女性の場合、いざ働く気になれば、年配者でも、調理補助、家事代行、介護職など、いろいろな求人があるものです。

「今さら、生活を変えられない」という思い込みを捨ててもいい

それでもダメなら、ひとりで生きるのもまた人生。「それでも、やっぱり無理。この人とは暮らせない!」と思ったときは、離婚し、新しい人生を求めるのも、選択肢のひとつだと、私は思います。なにしろ、まだまだ人生の先は長いのです。家庭内離婚、仮面夫婦状態を続けて、不快な気持ちで過ごすと、確実に心身に悪影響を与えることになります。

離婚届と指輪
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私は精神科医として、そうして心を壊していく女性の姿を、嫌というほど見てきました。私は、「夫婦は添い遂げるもの」といった理想を純情に叫ぶつもりはありません。「今さら、生活を変えられない」という思い込みを捨てることもまた、老後の選択肢だと思います。

「われながら、夫婦仲はよくない」と思う人は、「この人を介護できるかどうか」、より端的にいえば、「この人のおむつを替えられるかどうか」、自問自答してみるといいでしょう。「それくらいはできる」と思う人は、たとえ「仮面夫婦」状態でも、婚姻生活を続けていけるかもしれません。

一方、「それは、無理」と思う人は、熟年離婚を視野に入れても、私はいいと思います。子育ては終わっているでしょうから、もう、いい妻、いい母親を演じる義務はありません。今は、夫の年金を離婚後、分割できるようになっているうえ、女性の働き口は探しやすいので、離婚後の暮らしも、昔よりはるかに成り立ちやすくなっています。

なにしろ、女性の平均寿命は87.74歳。60歳からでも、女性の人生はまだ30年近くも続くのです。いったんひとりになってリセットし、その後、残りの人生をともに歩む新しいパートナーを探すのも、手だと思います。