強烈な競争意識をもった人が初めて感じた平穏

今までの彼は、自分の負けを受け入れられないがために、無意識のうちに荒々しい感情を表出させ、周りの人たちに当たり散らしていました。ここまで気付いたところで次にわたしたちが行ったのは、その怒りの感情に寄り添い、じっくりと感じてみて、彼の内面の変化を観察することでした。

ジェレミー・ハンター『ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室 Transform Your Results』(プレジデント社)
ジェレミー・ハンター『ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室 Transform Your Results』(プレジデント社)

やがて、彼の腹に収まっていた針金のボールは消滅しました。そして、平穏が訪れました。「なんて不思議なんだろう。気分がとても落ち着いている」と言いながら、彼は笑顔になりました。以前は、怒ってばかりで絶対に笑わない人だったけれど、本当はとても優しい人だったのです。

そして彼はこう続けました。「私は今まで考えることで自分を守ろうとしていました。負けが見えてしまったら、どうやったら復讐ふくしゅうするかをすぐさま考え始めていたんです。自分を守るために自動的にやっていたことなんですが、それに気付いて、それをやめたら、とても穏やかな気持ちになれました。オープンにもなれました。すべてをコントロールしなくてもいいと思えたからこそ、可能性が開けて、今なら何でもできるような気がします」

強烈な競争意識と共に生きてきた彼が、はじめて体験した穏やかさでした。

企業戦略の観点からは、競争することのメリットもあります。しかし、あまりに激しい競争意識の下では、部下たちとのコミュニケーションは育ちません。負けたらダメだと圧をかけられたら、誰だって萎縮してしまいますね。結果的にビジネスも停滞してしまいます。

部下の立場からしたら、怒ってばかりいる上司と、穏やかな上司と、どちらに親しみを感じるでしょうか。答えは明白ですね。

お酒はもういらない

このように、あなたの感情はあなたの周りにいる人たちにも影響を与えます。知らず知らずのうちに怒りや恐怖を伝搬していることも多いのです。

負の感情と向き合うためには、自分の感情にじっくりと寄り添いながら、消化してみてください。負の感情に寄り添うのは、はっきり言ってあまり居心地の良いものではありません。それでも、自分の感情から逃げないでください。

自分がどのように感じているかを観察することで、感情を吐き出すでもなく、ため込むでもなく、流せるようになります。そうすることで、自分へのプレッシャーを軽減することも、ストレスを減らすこともできるようになります。

かつて「ワインがマインドフルネス」だと言っていた先述の50代女性クライアントは、今では表情が柔らかくなり、周囲の人々も見違えるようだと証言しています。怒りをアルコールで分解するのではなく、自分の気付きに基づいて消化するすべを、彼女も体得したからなのでしょう。

これが、マインドフルネスです。時間と練習が必要ですが、誰でもできるようになる、人生をより快適にするためのスキルです。

(構成=山田ちとら)
【関連記事】
【関連記事】職場の一番苦手な人から電話着信…「気の重い仕事」が苦ではなくなるドラッカー・スクールのすごいメソッド
仕事能力の低い残念な人ほど「自分は同期の中では、決して悪くない」と考えてしまうワケ
「自分が正しいと思い込んでいる人とどう付き合うか」哲学者が教える人間関係に苦しまずに生きる秘訣
人がついてこない上司必見「仕事はさほどでもないのに慕われる上司」がこっそりやっている4つのこと
指示に従わない「くせもの部下」との1対1面談で、一流の上司が最後にする"最強質問"