「困っていること」を尋ねると笑顔が消えた
そこで、ヒアリングもかねて、ある日の交流では、「いまの生活で困っていること」を話し合おうということになった。
またあの女の子たちとのグループで集まる。いつもこうして円になるときは、大抵楽しいことやおかしいことを話したりゲームをしたりしてみんなで笑っている。彼女たちの笑顔からは、今日はどんなワクワクしたことができるんだろうという期待が見えた。しかし切り出さなければいけない話題、そしてそれを話し合うときの重みを思うと、わたしはいつもとちがって、純度が落ちた笑顔で彼女たちを迎えることになってしまった。緊張していた。
今日は、KSCFのソーシャルワーカーであるミス・ルーピも通訳兼サポートとしていてくれるから、彼女たちが英語では言い表せないような話もできる。
「いま毎日生活しているなかで、これは問題だな、とか、困ってるな、って思うこと、なにかある?」
彼女たちの白い歯がすっと見えなくなって、すこし考える間が空いたあとに、ひとりがぽつりと言った。
「学校の、勉強」
ミス・ルーピがすかさず「どうして?」と優しく問いかける。
「すごく忙しいの。まだ小さい弟の面倒を見なきゃいけなくって。家事も手伝わなきゃいけないし」
ほかの女の子たちも揃って、うんうんわたしも、と頷く。
「学校からドロップアウトしてしまう子もいるよね」と、ミス・ルーピがフォローする。
「うん。いまは大体みんな学校行ってるけど、もう少し年上になると、やめちゃう子も多い」
「それは、なんで?」
「家の手伝いとか、あとは仕事に就かなくっちゃいけない子も……」
朝は水汲み、放課後は家事があって勉強できない
あとからくわしく聞いたところによると、この地域では、義務教育の14歳までは、8割強の子どもが学校に通っているが、それ以降、15歳以上になると、6割がドロップアウトしてしまうそうだ。
「朝は水を汲みに行かなきゃいけなくって、学校から帰ってきたら夕飯のしたく。そのあいだに宿題とか、あんまりできなくて」
彼女たちの家には、水道がないのだ。地域全体で共有する水道まで、バケツで水を汲みに行くのが女の子たちの役割だそう。
「その共有してる水道も、困ることがあるんだよね?」
またミス・ルーピが質問を投げかけてくれる。
「そう……。みんながそこに汲みに行くから、よく男のひと同士で喧嘩してるの。水の奪い合いで。たまにそういうのに遭うと、とってもこわい」
さっきまでニコニコしていた女の子から発された「scary」が、胸に鋭く刺さった。シャワーのお湯がなかなか出ないくらいでぶーぶー言ってるわたしは、なんなんだろう。