家庭を崩壊させ、子どもの居場所を奪うアルコール
そこで、意を決したようにミス・ルーピが問いかけた。
「普段、ドラッグとか危険なサブスタンス(アルコールやタバコ)に触れる機会はある?」
悩みごとや地域の問題を次から次へと挙げていたさっきまでと打って変わって、女の子たちは口ごもってしまった。
「アルコールとか、タバコとか、おとなたちはよくやってる……」
先日ストリートチルドレンのNGOを訪れたときに聞いたことを思い出した。親がアルコホリックで家庭が崩壊してしまい、子どもたちも居場所を失う、と。
「同年代の子どもたちはどう? まわりにそういうサブスタンスを使う子はいる?」
ミス・ルーピも、状況調査のために真剣だ。
「うん、たまにいる……。でもこわいから、わたしは近づかないようにしてる」
「たぶん、学校に行ってない男の子たちのグループとか……」
ドロップアウトしてしまう、せざるを得ない子たちは、そうしてどんどん社会の核から遠のいていってしまうのだろうか……。
馴染みのある「丸いボール状のもの」が薬物と知らない
「なるほどね……。実際に、そういうものを売ってるのを見たことはある?」
女の子たちは、わからない、というふうに首をかしげた。それを見て、ソーシャルワーカーさんは、親指と人差し指で丸をつくった。
「みんな、こういう丸いボール状の、見たことない? 近所の売店とかにあったりしないかしら」
うーん、と考える素振りを見せたあと、女の子たちはお互いに顔を見合わせて話し合っていた。なにかヒンディー語の固有名詞らしきことばが飛び交っている。心当たりがあるんだろうか。
「うん、たぶんある。丸くて黒っぽいやつ……スナックみたいなパッケージの?」
どうやら、彼女たちには馴染みのあるもののようだ。
「そうそれ、バング・ゴラ。それはね、小さいけれど危険なドラッグなの」
一見なんでもないように見えるから店にも置かれていたりして、子どもの乱用につながってしまうと問題になっているものなんだとミス・ルーピが説明してくれた。彼女が「ベリー・デンジャラス」と言うのを、五人の女の子たちは、小さなおでこにしわを寄せながらじっと聞いていた。
その日の交流が終わって学校へ向かう帰り道、クラブのメンバーと話していると、ほかのグループでも危険ドラッグの乱用が子どもたちの身近に迫っているという問題が上がったという。
ほかにも数えきれないほど問題はあるが、この薬物乱用については特に、どうにかしたい、どうにかしなきゃいけないという共通の認識だった。