「さようならウクライナ、こんにちは台湾」

ペロシ米下院議長の台湾訪問に伴う米中関係の悪化を「歓迎」しているのがロシアだ。

クレムリンには、米国はウクライナと台湾で「二正面作戦」を強いられ、ウクライナ侵攻への国際的関心が相対的に低下するとの期待がある。ロシアのメディアでは、「中国はロシアにますます接近」「さようならウクライナ、こんにちは台湾」といった識者のコメントが飛び交った。

台湾の蔡英文総統(右)と写真撮影に応じるナンシー・ペロシ米下院議長=8月3日、台北市
写真=台湾総統府/POOL/AA/時事通信フォト
台湾の蔡英文総統(右)と写真撮影に応じるナンシー・ペロシ米下院議長=8月3日、台北市

中国はロシアのウクライナ侵略戦争に距離を置いていたが、対米関係の悪化でロシアとの連携強化に動きつつある。中露共同の対日軍事圧力も強まりそうだ。

「訪台は不要な挑発」と中国を擁護

8月5日、カンボジアの首都プノンペンでの東アジアサミット(EAS)外相会議で、林芳正外相が演説を始めると、中国の王毅外相とロシアのラブロフ外相がそろって席を立ち、別室で会談した。

ロシア外務省によると、ラブロフ外相はこの会談で、ペロシ議長の訪台とウクライナ情勢を提起し、「米国は機会主義的に世界各地で支配力を誇示しようとし、現実を無視して各国に脅威を与えている」と非難した。

王毅外相は、台湾問題へのロシアの立場は中露の包括的戦略パートナー関係の高さを示したと評価し、「台湾海峡の緊張が高まる中、中国はロシアとの戦略的協力を強化する」と応じた。両外相は国際舞台での影響力拡大や外交協力を図ることで一致した。

ロシアのペスコフ大統領報道官は、ペロシ議長の訪台を「まったく必要がなく、不要な挑発だ」と非難。中国の台湾周辺での軍事演習についても「中国の主権の範囲内の行動だ」と擁護した。ロシアはこれを機に、中露連携を再構築し、米中対立をあおる構えだ。

ロシアと距離を置いていた中国だったが…

2月に始まったロシアのウクライナ侵攻後、中露関係には不協和音が出ていた。

中国外務省報道官はロシアによるザポリージャ原発攻撃を「深刻に憂慮している」と指摘。キーウ郊外ブチャでの虐殺についても「真相究明と責任追及」を要求していた。

3月18日の米中首脳オンライン会談で、習近平国家主席はバイデン大統領に、「中国は戦争に反対する」「ウクライナに人道支援を行う」と述べた。バイデン大統領はロシアへの武器援助を行わないよう要求し、中国はそれを履行していた。