日本の平均賃金は30年も横ばいの状態が続いている。なぜ日本人の給料は上がらないのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「正社員の特権を守る代わりに日本人は貧乏になった。いますぐ終身雇用制を廃止するべきだ」という――。
日本人がますます貧乏になる悪循環
今、物価上昇の話題がしばしば新聞紙上にとりあげられ、政府は物価対策に躍起だ。それにもかかわらず、本来、物価対策で最前線に立つべき日銀は表に出てこない。
それどころか政府の政策と真逆の方向に「バズーカ砲」を打っている。国債の指値オペを発動し、国債を無制限に買い取ることで長期金利の上昇を断固防止しようとしているのだ。これでは日米金利差が拡大し、円安が進んで輸入インフレが起きてしまう。
主要中央銀行が利上げに舵を切る中、日銀が唯一、金融緩和に固着する理由は明らかだ。金利が上昇すれば、日銀は債務超過で存亡の危機に直面してしまう。さらに巨額債務を抱える政府は支払い利息の急増で予算が組めなくなってしまうからだ。
利上げをしない理由について黒田東彦・日銀総裁は「日本はインフレではない」「日本はまだ金利を上げない方が良い」などの苦し紛れの方便を展開せざるを得ない。その一つが「賃金上昇が物価上昇に追い付いていない」という主張だ。
米ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は「賃金が上昇しているとはいえ、モノの価格急騰と同じペースで上がっているわけではない。米国人の大部分にとって『実質所得が下がっている』」と話したとブルームバーグは報じた(8月1日付)。
欧米諸国は、現在、どの国も賃金上昇が物価上昇に追いついてはいない。それでも中央銀行は大胆な金融引締めに着手している。FRB(米連邦準備制度理事会)は、FOMC(連邦公開市場委員会)で0.5%、0.75%、0.75%と大胆な利上げを3回連続で決定した。
物価上昇しても、給料も上がれば問題はない。しかし、日本においてはそれは期待できない。30年も日本人の給料は上がっておらず、これからも上がる見込みはない。