「円が弱いと輸出産業に良く、円が強いと輸入産業に良い」と多くの日本人が思い込んでいるようだが、そんな単純な話ではない。

たとえば農業。農業は輸入産業でも輸出産業でもないが円安になれば日本の農業は復活する。安い外国産砂糖の進出で沖縄産サトウキビが補助金なしでは立ち行かなくなったのと反対の理由だ。

1個1ドルのトマトは為替が1ドル=100円の時は、輸入価格は100円だが、1ドル=300円になれば300円となる。国産トマトは外国産トマトに値段面でも勝てるようになる。

労働力も同じだ。円が強ければ、強い円で外国人を安く雇える。為替が1ドル=300円の時、月給1000ドルの外国人を雇うには30万円が必要だが1ドル100円の円高になれば10万円で外国人を雇える。円高に伴って、日本企業が海外進出をし、日本国内が空洞化していった理由だ。

日本企業が海外進出をするとは日本人労働力の替わりに外国人労働者を雇うということ。日本人労働力への需要は減る。日本人の給料が上がらないのも当然だ。

お札
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円安が進まず、経済成長は止まった

為替とは本来、経済情勢に合わせて上下すべきもの。経済の自動安定装置なのだ。円が安いとは「円で売るモノ、サービス、労働力」などがドル換算で安くなることで国際競争力が増す。

労賃で言えば日本人の労賃がドル価で安くなり、外国人労働者との仕事獲得競争に打ち勝つことができるのだ。日本人が「引く手あまた」となれば、日本人の給料は増える。

経済が本来30年も拡大しない低迷経済なら、本来、円は国力に応じて低下していなければおかしい。国内に魅力的な投資先がないのだから、経済成長を遂げて魅力的な投資先が沢山ある外国に資金は流れていたはずだ。

円売り/外貨買いが起き円安が進むのが通常の経済原理だ。しかし日本では当たり前の経済原理が働かなかった。それがゆえに円安は進まず、国際競争力欠如のままで経済は低位安定してしまった。

円安が進まないから高いままの日本人労働力への需要が増えなかったのと同時に、国際競争力が増さないのだからGDPが伸びず、各人の給料も増えなかったのだ。

低賃金とブラック職場を強いられる原因

日本人の給料が上がらない第3の理由は終身雇用制だ。

日本人は、終身雇用制で仕事が守られている分(非正規が増えている今ではそんなことも言ってはいられなくなったが)、低賃金とブラックな職場に甘んじなくてはならない。

一方、米国は終身雇用制など存在しない。実力や成果がものを言う。そんな職場だからこそ日本にはない緊張感があった。いまでも忘れられない記憶がある。

私はモルガン銀行(現JPモルガン・チェース銀行)勤務時代、NY本店へ出張し、ディーリングルームでたむろしていたら、部屋から出てきた資金為替本部長(のちの副会長)のカート・ビアメッツ氏に「すぐ東京に戻れ!」と雷を落とされた。