最大の貿易相手国は米国から中国に変わった
世界経済が米欧中という3ブロックに分断された場合、日本は否応なく中国経済圏と対峙せざるを得なくなります。
戦後の日本は、一貫して米国への輸出で経済を成り立たせてきました。旺盛な消費欲を背景に米国が大量の製品を日本から買ってくれたので、日本は黙っていても輸出を増やすことができたのです。日本の基幹産業である自動車メーカーの主戦場は日本市場ではなく米国市場ですし、他の業種も米国販売を強化することで業績を拡大させてきました。
つまり戦後の日本経済は、米国人の旺盛な消費欲によって支えられてきたわけですが、世界経済に構造的な変化が生じたことから、この図式が変わりつつあります。図表1は年代ごとに、日本の貿易相手国1位の国と貿易額を示したものです。
かつての日本は輸出・輸入とも米国が最大の取引相手でしたが、近年、中国との取引が増え、貿易総額ベースでは2015年以降、日本にとって中国が最大の取引相手となっています。輸出については米国が最大の取引相手であり続けましたが、2020年における中国への輸出額は約15兆820億円と、とうとう米国(約13兆3849億円)を上回り、すべての面において中国が1位となっています。
すでに中国との関係は米国よりも緊密という状況ですから、世界経済のブロック化が進んだ場合、日本はますます中国との取引を増やすことになるでしょう。日本が物作りの国として輸出を重視する限り、必然的に中国を顧客にせざるを得ない状況が続くことになります。
なぜ日本はアメリカとの貿易交渉で負け続けたのか
一連の変化は日本の外交政策に極めて大きな影響を与えると筆者は考えています。その理由は、「売る」「買う」というビジネス上の関係というのは、多くの人が想像する以上に両国の力関係に影響を及ぼすからです。
日本は戦後、米国に対して外交的な交渉力をほとんど行使することができませんでした。日本が政治的に米国の言いなりになっているというのはよく指摘されることですが、それは日本が太平洋戦争の敗戦国であり、かつて米国の占領を受けていたことが原因であるとの見方が大半を占めています。
確かに日本が戦争に敗北したことや、その結果として締結された日米安全保障条約の存在によって、日本の交渉力が削がれていた面があったのは事実でしょう。しかしながら、安全保障とは直接関係ない貿易交渉などでも、常に日本は圧倒的な譲歩を強いられており、それは安保条約の存在だけで説明できるものではありません。日本が米国に対して交渉力を発揮できなかったのは、日本企業にとって米国は最大顧客であり、ビジネスの利害関係上、米国に強く出られないという事情が存在していたからです。
ビジネス的立場の違いが国家間の交渉力に影響するというのは、ドイツを見れば明らかでしょう。ドイツは日本と同様、米国への輸出で経済を成り立たせてきましたから、政治的に米国に対して強い交渉力を発揮することができませんでした。ドイツはその現実をよく理解しているからこそ、米国の対独世論に常に神経を尖らせ、輸出が外交的なトラブルに発展しないよう、細心の注意を払ってきたのです。