トランプ政権以降、政治対立を背景に貿易が停滞

1972年のニクソン訪中以後、オバマ政権の時代まで、米中両国は多少の政治的対立はあったものの基本的には友好関係が続き、双方が必要とする商品を貿易で融通することができました。価格が安い商品は中国が一手に製造を引き受け、規模のメリットを追求することで、さらに値段を下げることに成功しました。米国人は旺盛な消費欲を背景に、安価な中国製品を次々と購入できたわけです。

ところがトランプ政権以降、米中の政治的な対立が激しくなり両国の貿易が停滞。米国企業と中国企業はそれぞれ個別に商品を発注するようになってきました。米国企業の中には、調達先を米国内、中南米、あるいは東南アジアに変更したところも多く、これらの国は中国のような大量生産ができないため、調達コストが上昇しています。モノの流れも大きく変わり、時間をかけて構築した従来のサプライチェーンは再構築を余儀なくされています。

これだけでも大変なことですが、同じタイミングでやって来たのがコロナ危機です。

物資の輸送には船舶が多く使われますが、新型コロナウイルスの感染が世界各地で拡大したことから、コンテナ船の運航が乱れ、物資が届かないという事態が頻発するようになりました。米中の政治的対立でサプライチェーンの再構築が行われていたところにコロナ危機が発生したことから、物流網はダブルパンチを受けてしまったわけです。

この状態が解消されないうちに、今度は、ロシアによるウクライナ侵攻が重なり、世界経済の混乱にさらに拍車がかかっている状況です。米中対立は今後も継続する可能性が高く、各国企業はこれを前提に調達網を再構築せざるを得ません。

世界経済は「3大ブロック制」にシフトしつつある

加えてコロナ危機によって各国の企業は巨大なサプライチェーンをリスク要因と見なすようになっており、近隣調達比率を高める動きも顕著です。中国は経済成長率が落ちてきているとはいえ、当分の間、1ケタ台後半の成長ペースを維持することでしょう。そうなってくるとGDPの大きさで中国が米国を追い越すのは時間の問題となります。

実際、多くのシンクタンクが2030年頃までには米中経済が逆転するという予測を行っています。米国が世界で唯一の超大国であるという従来の枠組みが変化するのはほぼ間違いありません。一連の出来事が複合的に絡み合った結果、世界経済は、米国を中心とした米国圏、中国と東南アジアを中心とした中華圏(場合によってはここにロシアが加わる)、そしてこれに欧州という3大ブロック体制にシフトしつつあります。

ドル紙幣の上のアメリカ、中国、EUの旗が描かれたキューブ
写真=iStock.com/Stadtratte
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これまで、米国を中心に1つに集約されていた世界経済圏が3つに分断されれば、規模のメリットが消滅し、各経済圏における調達コストは上がらざるを得ません。しかも中国の台頭によって新しい技術標準が生まれつつあり、近い将来、米国と中国の技術には互換性がなくなる可能性も指摘されています。

東南アジアを中心に新興国がめざましい経済成長を実現しており、2020年代半ば以降には、日本の経済的な地位がさらに低下する可能性が濃厚です。日本はこうした世界経済の変化を前提に、成長のシナリオを考えなければなりません。