最後にエンパワーメントによりモチベーションを高めるうえで考慮しなければいけないのが、それによって発生する経営リスクである。
リスクとは、組織が個別最適に陥ってしまうことである。自分で勝手にやってもいいよ、というだけでは、その人が会社の方向性に合った働き方をするかどうかはまったくわからない。極端にいえば、遠心力が働くために会社がバラバラになってしまう恐れがある。
そうならないためには、個をまとめ上げるビジョン、価値観、理念を共有することが極めて重要になる。トップマネジメントがそうした世界観を描き、従業員にいかに浸透させていくかが非常に重要であり、また、それは働きがいの観点からも大切な要素である。
米系企業はその点を十分に認識しており、理念型のリーダーが多い。グーグルやP&Gジャパン(総合ランキング3位)などでも、理念の浸透を図る活動を日常的に展開している。とくにP&Gなどはグローバル化する過程でダイバーシティを推進しようとしている。そのため逆に理念が今まで以上に重要であるという認識が強く、グローバル規模での理念の共有化に力を入れている。
日本では、ホンダ(総合ランキング2位)も理念型企業といえるだろう。ホンダは働く人たちに与えられている権限が高い。各事業部門の独立性が高く、事業部門のトップは、同じ事業部門から選出する仕組みを取っている。エンパワーされた組織といえよう。しかし、その半面、全社的な視点をもった人材が育たないという問題も発生しやすい。
それを防ぐために、人事部は理念形成や理念共有に非常に力を入れている。研修の多くを理念共有に費やしているといわれるほどだ。また、ホンダイズムを数カ国語に翻訳し、グローバルでも同じような活動を展開している。
同じくグローバル企業の代表格であるパナソニック(総合ランキング5位)には、松下幸之助の理念が根付いていたが、幸之助の言ったことを中村邦夫会長が現代版に翻訳したことが、会社の再生の原動力である。中村会長が実施した一連の機構改革も素晴らしいが、何といっても松下幸之助の理念を現代版に翻訳し、求心力を維持しなければパナソニックの成功はなかっただろう。