安倍元首相は、父・晋太郎氏の後を継ぐ形で浄土宗と浄土宗信徒の国会議員でつくる親睦団体「浄光会」の世話人を務める一方、旧統一教会とも一定の関係を持っていた。600万人の信徒がいる浄土宗ではなく、なぜ、規模の小さな宗教の票田を狙ったのか。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんが宗教と政治の関係を解き明かす――。
安倍氏の「起こるべくして起きた」事件の構造とは
安倍晋三元首相の狙撃暗殺事件は、国内外に衝撃をもたらした。密葬であったにもかかわらず、葬儀会場の増上寺には数千人が押し寄せ、多くの国民が別れを惜しんだ。事件から半月が経過し、山上徹也容疑者の供述などによって、安倍氏や国会議員と世界平和統一家庭連合(本稿では、旧称の「統一教会」とする)との関係が少しずつみえてきた。
ここでは、本事件を端緒として、安倍氏の信仰や「起こるべくして起きた」事件の構造、権力と宗教の在り方を論じていきたい。
安倍氏が亡くなった3日後の7月11日に通夜、翌12日には葬儀が執り行われた。通夜の直前、統一教会の田中富広会長は会見を開き、容疑者の母親が信者であり、経済破綻していたと認めた。
安倍氏は教団の関連団体の行事にメッセージを寄せるなど、教団とは一定の関係があった。安倍氏は2006年に福岡で行われた大会および合同結婚式の際に、祝電を送っている。容疑者は、多額の献金が家庭崩壊につながったことに恨みを募らせ、教団幹部への復讐心の矛先を社会的影響力の大きい元首相に向けたのだ。
だが、なぜ安倍氏は統一教会に関わりをもっていたのか。安倍氏の菩提寺は山口県長門市にある浄土宗寺院であり、安倍家歴代の墓所もそこにある。浄土宗の大本山増上寺で密葬が行われたのも、同じ宗旨だからだ。
よって、安倍氏は仏教徒であり、キリスト系新宗教の統一教会の信者ではない。法然上人が開いた浄土宗の念仏の教えのみが、安倍氏の宗旨なのだ。