手渡す瞬間に親指を立てる行動にも理由があった
もう一つ注目してもらいたいのは、学校長が卒業証書を手渡す瞬間だ。学生は腕を伸ばして証書を受け取ると、そのまま証書を少し立たせるようにする。そのとき、校長も証書を手放す瞬間に両手の親指を上に立てて、いわばOK(いいね)サインを出すことになる。
当初、これは伝統的なスタイルなのかと思ったが、理由はそうではなかった。学校長が証書を手放す瞬間に証書の紙が大きいので指を切ることがあり、下手をするとそのあとの卒業証書に学校長の血糊が付いてしまうことがあるというのだ。
それを聞いたとき、「なるほど」と思った次第で、おかげさまで9年間、本科・研究科合わせて5000枚くらい手渡した計算になるが、一度として指を切ることはなかった。校長の「血判」の付着した卒業証書もなかなかの価値だとは思うが。自衛隊では、すべての動作には一定の理由があるのだ。
「名前が違うじゃないか」本番のヒヤリ体験
また、卒業証書が毎年500枚もあると、途中で2枚渡してしまうことがありえる。そこで余分に名前のない証書が最後に多めにはさんであるのだが、そういう経験は幸いになかった。
ただ一度、授与し始めて50枚目ほどだったか、学生と証書の名前が違うという事態が発生した。学生は顔色変えず、私も何事もないかのように平然とふるまい、授与を続けた。途中から正常軌道に戻ったのでよかったが、順番が狂った部分については、学生舎に戻ってから交換したそうだ。
なんでこんなことになったのか。真横で手渡してくれた若い自衛官も何度も練習したらしいが、練習しすぎて最後におかしなことになったらしい。とはいえ、何事も臨機応変が大事だということだ。