自分の実力をわかっていない人は、途中で倒れてしまう

私は一時期、体力をつけるためにと、休みになると山登りをやっていました。もともと人に負けるのが嫌いな性格ですから、「こんな山を登るのに何をもたもたしているんだ!」という感じで、バーッと追い抜いていく。しかし、あまりにスピードを出すものだから、8合目くらいで体力を使い切って、バタンと倒れてしまったことがあります。

仕方がないので、身体を休ませるため横になっていると、ずいぶんと前に追い抜いた人たちがゆっくりゆっくり登ってきて、リーダーの人がこう言うんですね。

「みなさん、あそこで今寝ておられる方はずいぶん前に私たちをバーッと追い抜いていかれましたね。なぜ、倒れてしまったかわかりますか。あの方は体力を温存できていないんですよ。自分の山登りの実力をわかっていないんだ。山登りにおいては、ああいうことをやると失敗しますから、気をつけてくださいね」

私がへたって休んでいる横で、わざわざ足を止めてそうやって説明したのです。

「山登り」と「会社経営」に共通すること

そのとき、私は「ああ、なるほどな。それはそうだな」と思いました。最初は体力があるし、相手もゆっくり登っているから、簡単に追い抜ける。「なぜこんなところを、こんなにゆっくり歩いているのか。もうバーッと登って、上で飯を食って早く帰ろう」と思いながら「お先! お先! お先!」と追い抜いていくことができます。「これくらいならあっという間に登れる」という感じがするのですが、実際にはそうはなりません。8合目くらいになったら急に足が動かなくなってしまって、最後にはバタンと倒れてしまうのです。

永守重信『人生をひらく』(PHP研究所)
永守重信『人生をひらく』(PHP研究所)

「これではいかん」となって、次は体力を温存しながら登ったら、頂上にたどり着いてもまだ体力が残っていました。「ああ、これだな」とそこで学ぶことになったのです。

あまり慌て過ぎるのはよくないという点は、会社経営も一緒です。もちろん、「これは何としてでも登り切るぞ」という気持ちがあればこそ、身体だってついてきます。気概と執念というのはどこまでいっても大切です。「つらいな」と思ったらすぐ逃げるのではなく、「これくらい何だ」と思って挑戦しなければ、何事も成就しません。

ただし、そもそもの実力がなければ、いくら気概と執念があったところで途中でバタンと倒れてしまうでしょう。ですから、山登りでも会社経営でも、自分の実力が目標に見合っているかどうかを見極めることも大切になってくるのです。

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