人間臭さを消してまで立派なことをやらなくていい

周囲の人は、「次はああいうことを言わないほうがいいんじゃないですか」と言うけれど、次もまた私は言うでしょう。

言葉の使い方一つとっても、関東では「あんた」という言い方はダメで「あなた」と言ったほうがいいんじゃないかという意見もありましたが、そのとき真剣に怒っている私からしたら、言葉なんて選んではいられません。少し冷静になったときには、「あなた」と言い換えましたが、怒っている最中には関西弁が出てくるというのが私という人間なのです。

だから、人間臭さを消してまで立派なことをやろうと思わないほうがいい。人間には、欠点があったほうがいいと私は思っています。

人生観や理念ができあがるまでには最低10年かかる

人間が何かをやろうとするときには、必ず動機があります。動機があるからこそアクションに結びつくのです。

私の場合でいえば、父親が中学2年生のときに亡くなって、家がものすごく貧しかったので、「自転車がほしい」と言っても、買ってもらえなかった。友達がズック靴を履いていても、こっちは裸足でした。

あるとき、同級生の家へ行ったら、ステーキとチーズケーキが出てきて、部屋の中でスイス製の模型列車が走っている──。友達に、「おまえのお父さん、何しとるんや」と聞いたら「社長や」と答えたものだから、「社長になったらこんなうまいものが食べられて、こんな立派な家に住めるのか」と子供心に思ったわけです。私が社長になりたいと思った最初の動機づけというのは、そんなものなのです。「社会に貢献して、雇用を増やして……」というような立派な動機で始まったわけではありません。

テンダーロインステーキ
写真=iStock.com/Andrei Iakhniuk
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そして、会社をつくったらつくったで、キャッシュがないので、毎日毎日、資金繰りに追われて、会社の理念や経営方針などについては、当初は考える余裕もありませんでした。

要するに、人生観とか理念というものは、一挙に出来上がるものではないということです。最低10年はかかります。

上場は入り口にすぎない

その後、会社がだんだん軌道に乗り始めて、健全な利益が出始めたときに、「これでは中小企業で終わってしまうな。もっともっと大きな志を持たないといけないのではないか」と思うようになったのです。その間、妻からは「あんたは偉くなると思ったから結婚した」と言われたり、私が会社を大きくしたことで母が「ああ、いい夢を見させてもらって自分は死んでいくわ」と思ってくれたりということもありました。人間の動機づけというのは、自分だけのものではないということです。

日本電産が上場したとき、「社長。上場したのだから、この辺でゆっくりして、毎月とは言いませんが、3カ月に一遍くらいゴルフコンペをやって、少しは楽しみましょうよ」と言う人もいて、「こんなものはまだ入り口だ。今から売上が何千億円という会社にするんだ。楽をしたいのなら君はもう株を売ってゆっくりすればよい」と言ったこともありました。