立派とロクデナシ

大学を卒業した黒島さんは、高齢者施設に介護士として就職。しかし激務が続くあまり、23歳の時に疲労とストレスで、多少の緊張や小走り程度の運動で蕁麻疹じんましんが出て、全身を内側から針でチクチクと突かれているような痛みが出る発作が起こるほか、1日に何度も失神するようになる。

さまざまな病院にかかり、いろいろな検査を受け、食事療法なども試したが原因はわからない。上司や同僚から親身なサポートを受け、何とか勤めていたが、迷惑をかけ続けるわけにもいかない。最終的に心療内科で、「ストレス性のものでしょう。お母さんと物理的に離れなさい」と言われたことをきっかけに、当時知り合ったばかりの31歳の整体師と結婚の話を進め、寿退社という形で辞職し、家を出た。

寒い、風が強い、雨の秋の日に空の駐車場を歩いてする傘を保持している若い女性
写真=iStock.com/gruizza
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ところが結婚して数日後、その相手がDV夫だったことが判明。気に入らないことがあると、激痛が走るがアザができない程度の力加減で指圧をしてきたり、関節技をかけてくる。

「最初は穏やかで頼り甲斐のある男性という印象でしたが、そうではなく、口先三寸で他人を意のままにコントロールしたいだけの冷たい人でした……」

黒島さんは3カ月で離婚すると、実家へ戻った。

これまで一度も母親に弱音を吐いたり悩みを相談したりしたことがなかった黒島さんだったが、離婚を決めた時に初めて「結婚を決めた時に喜んでくれたのにごめん。耐えられなかった」と打ち明けた。すると母親は、「無理はせず、体が治ったらまた復帰したらいいよ」と珍しく優しく励ましてくれたため、救われる思いがした。

「この時は家族の存在がありがたかったです。兄は離れて暮らしていましたが、久々に会ったとき、『俺は大学を出て新卒から正社員として働いているから立派だ。お前は仕事もすぐ辞めてフラフラした挙げ句に離婚までして、親に迷惑かけてるロクデナシだ』と鼻で笑われました。この頃の兄は、幾度となく親に10万円単位の金をせびって、さすがに不信感を持たれ始めていました。私はというと、病気に振り回されつつも社会復帰を目指し、親とも少しずつ和解できてきた頃だったので、『立派とは? ロクデナシとは?』と複雑な気持ちでした」