リトアニアも一触即発

バルト三国のリトアニアが第3次世界大戦の引き金になるかもしれないことは、4月27日のこの連載で指摘しました。ロシアの飛び地の領土カリーニングラードとの国境を、リトアニアが封鎖する動きがあったからです。ロシアからの警告が効いたようで封鎖は見送られていたのですが、6月18日から、EUが制裁の対象としている貨物を積んだ列車の通過を禁止し始めました。

カリーニングラードはバルト艦隊の母港であり、迎撃ミサイルシステムも備わっています。ロシアにとって戦略的な要衝ですから、交通路を確保するため「平和維持」の名目でNATO加盟国のリトアニアに軍隊を送る可能性があります。旧日本軍が、南満州鉄道を守るという名目で派兵したようなものです。

ではアメリカは、NATO第5条を適用して共同防衛に踏み切るのか。これは、ロシアと本気で事を構える覚悟があるか否かを問われる事態ですが、アメリカは介入したがらないでしょう。

アメリカ、イギリス、ドイツは交戦国と認定されかねない

最終的には、リトアニアが妥協せざるを得ないと考えます。しかし、小国の瀬戸際外交によってロシアを挑発してみせ、NATOに対しても存在をアピールできたことは、リトアニアにとっての成果になります。ソ連が崩壊する前から、リトアニアの歴史的なアイデンティティーは「反ロシア」で、教育や文化全体の中で染み込んでいます。それは裏返して言えば、ロシアの怖さをよく知っているということです。

リトアニアの歴史を振り返ると、13世紀にはリトアニア大公国が成立し、14世紀にポーランドとの連合王国となり、全盛期はバルト海から黒海に及ぶほど勢力を拡大します。しかし18世紀末にはロシア、プロイセン、オーストリアによって三度にわたり領土分割が行われ、ロシア革命が起こる1918年まで約120年に及びロシア帝国の支配が続きました。1940年のソ連侵攻により再び独立を失い、その後ナチスドイツが占領、そして再びソ連に併合されます。そのため、反ロシア感情が極めて強い国の一つです。

仮にクリミア大橋が破壊されれば、ロシアはそのための武器を供給したNATOへの攻撃に踏み切りかねません。カリーニングラードに対するリトアニアの封鎖も同じで、ロシアは力で阻止するかもしれません。どちらの場合も、第3次世界大戦の危機が到来します。

伝統的な国際法からすると、兵器を供与している国は、それだけで交戦国と認定される可能性があります。アメリカ、イギリス、ドイツなどは、すでに交戦国と認定されてもいいほどの踏み込み方をしています。ウクライナの戦いは応援するが、NATO諸国や米ロ戦争に拡大しないようにする綱渡りゲームが行われているのです。

(構成=石井謙一郎)
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