クリミア大橋の爆破で「ロシアにパニックが起きる」

アメリカが武器の追加支援を発表した翌日の6月16日には、ウクライナ国防軍のマルシェンコ少将の発言が報じられました。

「米国をはじめとする北大西洋条約機構(NATO)諸国の武器を受け取ったら、少なくともクリミア大橋の攻撃を試みる」

「クリミア大橋は目標の一つか?」と尋ねられたマルシェンコ少将は、

「100%そうだ。このことはロシア軍人、ウクライナ軍人、ロシア市民、ウクライナ市民にとって秘密ではない。これがロシアを敗北させるための第一の目標だ。われわれは虫垂を切らなくてはならない。虫垂を切れば、これでロシアにパニックが起きる」

と答えたといいます。

ロシアのタマン半島とクリミア半島東端をつなぐクリミア大橋。
写真=iStock.com/Sergey Denisenko
ロシアのタマン半島とクリミア半島東端をつなぐクリミア大橋。

ロシアは、敏感に反応しました。政府系テレビ第一チャンネルの政治討論番組「グレート・ゲーム(ボリシャヤ・イグラー)」が早速この日の夜、マルシェンコ少将の発言を取り上げたのです。出演者は、ロシア高等経済大学のドミトリー・スースロフ教授、モスクワ国際関係大学のアンドリャニク・ミグラニャン教授、作家のニコライ・スタリコフ氏などでした。

アメリカが必死になってウクライナを抑えている理由

スースロフ教授が問います。

「スタリコフさんにお伺いしたい。米国は、この種の発言やウクライナの行動が紛争を激化させる直接的要因になるとは考えないのか。紛争はウクライナだけでなく、その外側にも及ぶ。猿に手榴弾を持たせるようになれば(今がまさにそのような状況であるが)、責任は猿に手榴弾を渡した者が負わなくてはならない」

スタリコフ氏は、こう答えました。

「理屈では、猿に手榴弾を与えた者が責任を負わなくてはならない。しかし、歴史において責任を負うのは猿自身である。手榴弾は投げた者がその責任を負うというのが、米国の考えだ。ウクライナ軍の将官の一人がクリミア大橋を攻撃すると言っても、米国は何の損もしない」

いまのところクリミア大橋への攻撃が実行されないのは、アメリカが必死になってウクライナを抑えているからです。アメリカは、ロシアがこの戦争に勝つことがあってはならないと考えると同時に、ロシアが攻勢を強めるウクライナ情勢においてウクライナが圧勝することはないとわかっています。だから戦火をウクライナ国内に押しとどめたいと考えているのです。