「政」だけでなく「官」もカネで動かそうとした
【佐藤】その保険は、ちゃんと効くのです。でも、一方でけっこう陰険なお金の使い方もしていたんですよ。角栄にかわいがられていた鈴木宗男さんは、そのあたりについても間近で見ていました。角栄は、当時赤坂にあった2軒のラブホテルの鍵番のおばさんにも「献金」していたのだそうです。それで、政治家や高級官僚が女性を連れ込んだら、その情報を届けてもらう。それを持って、「よっ、先週は頑張ったね」と、当事者を暗に脅すわけ。(笑)
【池上】それは、政治家にとって、ある意味金を受け取った現場を見られるよりも恐ろしい。(笑)
当然、政治家にも金をばらまいたわけですね。違う派閥の政治家にも、野党の人間にまで渡していた。熱烈支持にならなくても、敵にならなければいいんだ、という発想だったのでしょう。
【佐藤】政権の中枢に食い込んでからの角栄は、「政」の世界だけでなく、「官」も金の力で動かそうとしました。
【池上】大蔵大臣になった時には、職員全員に高級ネクタイをプレゼントして、大蔵省全体を買収したと言われました。
【佐藤】ただ、金の力で全てを抑え込める時代が転換点を迎えているというところは、見誤ってしまった。
【池上】だから、最後は、その金が命取りになってしまいましたよね。
【佐藤】政治家の露骨な「カネ問題」に一つのけじめをつけるという意味では、田中角栄という人は、時代的にちょうど必要な存在だったと言えば、言い過ぎでしょうか。