県立医科大は死因を「失血死」とし、県警は司法解剖の結果、「上腕部から体内に入った銃弾が鎖骨下の動脈を損傷したことが致命傷になった」と発表した。銃弾は体の中に入ってから動くため、体のどこから出血しているのかを見極めるのは難しいとされる。

「撃たれた後、10分以内に止血をする必要があった。経験が豊富な医師なら適切な止血ができたはず。止血によって大量の出血を防ぎ、脳の血流を途絶えさせず、脳を麻痺させない措置ができていれば、一命を取り留めた可能性があった」(同熟練救急医)

困難を可能にするための2つの方法

そのための治療にはエクモ(体外式膜型人工肺)の活用が必須だ。エクモは新型コロナ感染症の重症患者の治療で有名になった医療機器で、こうした大量出血の治療にも威力を発揮するという。

緊急治療を可能にするには2つの方法があるかもしれない。1つは、現場から近隣の医療機関に運び、そこにエクモがなければ、急いでそれを配備する。経験のある専門医がその医療機関に合流して治療を応援する。

安倍元総理を50分近くかけて移動させるのでなく、医師や医療機器を移動させて治療するという方法だ。

もう1つは、昨年のTBS系テレビドラマ「TOKYO MER~走る緊急救命室~」で描かれたような「手術室のある医療車両」を作る案だ。

ドクターヘリに駆け寄る人
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ドクターヘリは遠隔地でも患者を迅速に運ぶ機能があるのに対し、「動く手術車両」が実用化されれば、現場に到着してその場で応急的な手術が可能となる。

経緯の検証と救急救命体制の整備の検討を

どちらの案も、医療界では常識外れかもしれない。だが、現状の医療体制では元総理を救えなかったという歴然とした事実がある。

近くに設備の整った医療機関がなく、今回のように一刻を争う治療に対応するには、新たな即応体制を整える必要があるのではなかろうか。

医療界のみならず、政府も積極的に検討してほしい。