【死角①】発生後10分以内
この事件で医療関係者からの論評は少ない。医療従事者は他の医療従事者のことをとやかく言わないという「不文律」があるからだ。そのため日本を代表する医師らに話を聞いたが、「匿名なら」という条件になった。
安倍元総理が銃弾に倒れたのは7月8日午前11半ごろだ。救急車は5~6分で到着した。この後は、首都圏や大都市で大学病院等が近くにある場合なら、すぐに治療を開始できたはずだ。今回は、高度な医療機関が限られている地方都市で起きたため、条件は異なった。
それでも、東京都内の大学付属病院の熟練救急医は、これまでの治療経験を踏まえて指摘する。「10分以内に適切な医療ができていれば、助かった可能性はゼロではなかった」。
ドクターヘリという選択
今回の事件では、安倍元総理が銃弾に倒れた直後、周囲にいた人々と駆けつけた医療関係者とで、心臓マッサージとAED(自動体外式除細動器)による蘇生が試みられた。
続いて到着した救急隊は、緊急医療の“常識”であり、切り札であるドクターヘリに安倍元総理を引き継ぐことになった。
事件現場は奈良市内の繁華街なのに、なぜ、僻地や離島などで使わることが多いドクターヘリが使用されたのか。
事件現場の近鉄大和西大寺駅前(奈良市西大寺東町)から、奈良県立医科大学附属病院(奈良県橿原市)までは約22キロ。
「普通の道路状況なら30分くらいで着くけど、渋滞なら1時間以上かかり、渋滞は日常的に多い。それでドクターヘリが出動したに違いない。現場から約1キロの平城宮跡歴史公園に運ばれ、そこで安倍氏をヘリに乗せたのだろう」と奈良県の医療関係者は地元の事情を解説する。
※編集部註:初出時、「西大寺駅周辺にはヘリポートはなく、河川敷で救急車と合流してそこで安倍氏をヘリに乗せた」とありましたが、「現場から約1キロの平城宮跡歴史公園に運ばれ、そこで安倍氏をヘリに乗せた」と修正しました。(7月11日18時34分)