海外なら私的警護も雇用
今回、安倍元総理の警護が手薄だったことから、要人警護の人員を増やすべきではないか、との議論が出ている。ただ、何でも公費で賄うべきという考えは、どこまで実現可能であろうか。
「選挙応援演説は政党の利益のための行為でもある。議員や総理経験者は公共の目的で警護できるが、党の利益という側面があるなら、党でも独自に私的な警護を付けるべきかもしれない」(ある政治評論家)という意見も聞かれる。
安全にカネをかけないのは、日本の悪しき“常識”ではないか。海外では、要人に私的なSPも付けるのが当然だ。
「ハリウッドのスターは当たり前だが、どこの国から来日しても、私的なSPを引き連れて来る」と語るのは、全国紙の映画担当記者だ。
この記者は、韓国ドラマ『愛の不時着』などで知られる韓国の女優、ソン・イェジンを取材したときも、屈強なSPを従えていたことが強く印象に残った、と語る。
「ソン・イェジンを都内のホテルで取材した際、SPの数は半端じゃなかった。スタッフも含めて総勢10人以上がホテルの廊下、部屋の前などに張り付き、張り詰めた雰囲気だった」
「交通整理員のような警備員」には限界
今回の安倍元総理の警護には、警視庁SPや県警の警備担当以外にも、民間の警備会社の警備員が配備されていた。
だが、民間の警備員については報道で見る限り、工事現場で交通整理をするような高齢の警備員が演説現場の近くに立っているだけで、これは海外のSPとはまったく違う性質のものだった。
安倍元総理の悲劇は、警護・警備が不十分な体制で、しかも医療機関が手薄な地方都市という環境で起きてしまった。日本の“常識”は美徳にもつながり素晴らしいものはたくさんあるが、現代に通用しなくなった“常識”は改める必要があるだろう。
失われた尊い命はけっして戻ってこない。しかし、悲劇を再び繰り返さないためにできることはあるはずだ。