十分に開かなかった折り畳み式防弾盾

今回の事件では、警護上、疑問の残る行動があった。その1つは、防弾機能があるSP用のかばんが有効活用されなかったという疑いだ。

SPらが山上容疑者をラグビーのタックルのように引き倒し、その体に覆いかぶさった場面で、SPと思しき男性が所持していた黒色で薄型のかばんが、報道で映し出されていた。これは、防弾機能があるSP用のかばんとみられる。

「このかばんは、銃撃があった際、さっと広げるよう訓練されている。これを盾にして次の銃撃を守るはずだったが、今回は開かなかったようだ」(警視庁の警備担当OB)

このかばんが機能するのは、映画の世界だけなのか。

「がら空き」だった背後

もう1つの疑問は、演説場所だ。安倍元総理はガードレールで囲まれ、360度視界が開かれた場所で演説した。とりわけその後方は車道を挟んで、がら空きの状態だった。

バッキンガム宮殿の外で武装する警察官
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山上容疑者は車道を歩き、安倍元総理に近づき発砲。さらに接近して2発目を発砲した。山上容疑者が車道を歩いて接近した段階で不審者として確保できなかった落ち度がある。その以前に、犯人が容易に近づける場所を演説会場にした警備計画にも落ち度があった。

奈良県警の鬼塚友章県警本部長は7月9日になって、「警備上の問題があったことは否定できない」と責任を認めた。そのうえで、安倍元総理は6月28日にも銃撃現場近くで応援演説をしていることから、「今回の警備計画書に修正すべき点を感じなかった」と了承したことを明らかにした。

警護の鉄則より前例踏襲を優先しなかったか

鬼塚本部長は、警察庁警備局警備課警護室長など警備の要職を歴任しているが、今回はその経験は生かされなかった。過去にも使われていたから大丈夫という安易な前例踏襲は、日本的な“常識”の弊害だろう。

警護の世界では、背後を空けないというのが鉄則だ。

スナイパーが活躍する劇画『ゴルゴ13』でも、安全対策として壁があるところに背中を向けることが描かれている。『ゴルゴ13』の大ファンとして知られる麻生太郎・自民党副総裁なら、当然知っていることだろうが、警察の警護担当者らには伝わっていなかったようだ。