お客さんへの日々の食提案も進んでいる。店の中に「クッキングサポート」のコーナーを設けているのだ。そこで、店内の素材を用いて今夜の食事メニューを提案する。主婦パートナーが大活躍するのだが、それについては小川孔輔氏の「心理学が解明! ヤオコー『22期連続増収増益』の秘密」(http://president.jp/articles/-/5623)に詳しい。
より美味しい、和洋中の多様な食事を求めるのが時代の流れ。それに沿った店づくりに励むヤオコー。だが、標準化の方策も怠りない。小川氏が『しまむらとヤオコー』の中で指摘しているが、陳列棚に縦系列に商品を並べる並べ方など、共通マニュアルが各店で徹底されている。いわば、「多様性を求める中で標準化も徹底させている」。
急ぎ足の紹介になったが、いくつか気がついた点を述べたい。第一に、専門食品スーパーといっても、タイプは一つではない。分化が始まっている。一つは、アークスのように価格志向のタイプ。もう一つは、ヤオコーのように食提案志向のタイプ。両者は棲み分け可能だ。それぞれの店を贔屓する生活者とその買い方がそもそも違っている。価格志向の店には、週1度の大量購買が合う。他方、提案志向の店には、毎日購買する買い方が合う。
第二に、八ケ岳連峰経営を標榜し、店経営において、標準化志向の中に多様性を組み込もうとするアークス。逆に、店の個性を重視し多様性を志向する中に、店舗間の標準化を組み込もうとするヤオコー。方向は逆だが、狙いどころは同じ「多様性と標準化のバランス」。そのバランスの中に、わが国独自のスーパーマーケットの性格が生まれる。
その両社にとって一つのカギはボトムアップ経営。店の多様性は、現場の創意工夫によってしか生まれない。言い換えると、店を経営し、店の働き手の力をくみ取る若い元気のいい店長さんと、いつも買い手の気持ちになって考える主婦パートナーさんの力が、日本のスーパーマーケットを支えている。そのことをあらためて実感した次第。
20年に及ぶ経済と消費の停滞が続く中、小売業は構造不況業種と見られがち。だが、工夫次第で成長業種に変わる。そこがビジネスの面白さ。コンビニと食品専門スーパーは絶好調。ただ、その内容はずいぶん違う。徹底した中央集権のコンビニ。店の個性や現場の創意工夫を軸に置く食品スーパーマーケット。
同じ食品を売っていても、好不調に分かれ、また好調勢の中でも違う売り方がある。いい商品がすなわち、市場をつくるわけではない。カギを握るのは売り方なのだ。