親の愛情を子どもは理解できていない
たとえば「③愛の物語」。
子に対する親の愛というものを、子どもたちが本当に理解するのはまだ難しいため、ひとまず知識として教えるしかありません。そこで、私は、次のように説明しています。
「親の愛は、どんなことがあっても(無条件)・なんとしても(無限定)に子どもを守りたいという気持ち」
もし自分の子どもがたとえば殺人のような凶悪な罪を犯したとしても、子どもの味方でいるというほどの強い感情です。
もちろん、中にはそうでない親もいるかもしれませんが、中学受験問題では典型的な親の愛について出題されることがほとんど。
子どもたちは、物語文の前書きや登場人物を読んだ段階で「あ、これは親の愛に関する物語かもしれない」と見当を付け、本文そのものに加え前もって学んだ親の心情についての知識も踏まえて問題を解いていくことになります。
「マイナス面」を持つ人にしてはいけないことは何か
また、10年ほど前には「①成長の物語」がとても多かったのですが、近年では「②ビンボースペシャル」に関する物語の出題が増加する傾向にあります。
これは、見方を変えれば「自分とは違う立場の人」の心情の理解力を試す問題が増えたことでもあります。この理解力は実生活でも極めて重要ですよね。
入試で出題されるいわゆる「マイナス面」を持った人とは、たとえば貧しい家庭に育った人物をはじめ、障がいを持った人、離婚家庭の子ども、戦争の状況下に生きる人などです。
ここでは、わかりやすいように、まずは、「お金持ちの登場人物」「貧乏な登場人物」という2つの軸で説明しましょう。
「お金持ち」が「貧乏」に対して抱く感情には、「見下す」といったマイナスのものから、「かわいそう」「少しうしろめたい」「同情」など相手にプラス面も見いだしているものまでさまざまです。
いっぽう、「貧乏」が「お金持ち」に抱く感情はまずは「ねたむ」「しっとする」「ひがむ」などのマイナス感情が目につきます。
しかし、「貧乏」が抱く感情のほうはそれだけではなく、「強者に頼る」「反発する」「プライドが傷つく」「引け目を感じる」など、より複雑になることが多いのです。この辺りが、物語文を読み解くカギとなることも多くあります。
この情況において基本となる考え方のルールは、「マイナスの部分を持っている人に、マイナスを実感させることをしてはいけない」というものです。
これは、入試で本当にたくさん出題されます。単純化した例を挙げれば、「脚が不自由な子を助けたらその子に怒られた、それはなぜか」というような問題です。
これは、前述のルールを知らなければ、解くのはなかなか難しいでしょう。
実際にも、私が以前に目の不自由な方が車道に出てしまっているのを助けた際に、「車道に出ていますよ」と伝え歩道まで誘導してあげたら、その方が「ありがとう」も言わず不快そうにしていたことがあります。
私は、「ビンボースペシャル」のルールどおり、良かれと思ってやったことでも相手に「マイナスを実感させてしまい、相手が不快に思うこともあり得るということを理解していたので私にとっては「想定内の出来事」でしたが、そうでなければ嫌な気持ちになったりトラブルになったりする可能性もあったでしょう。