「動画は見るのに時間がかかりすぎる。間とか要らないので、とりあえずあらすじだけ教えてほしい」と、ある大学生は言う。彼の基本の再生スピードは1.5倍だ。「慣れているし、別に速いと思わない。むしろ元のスピードで見るほうがイライラして苦痛」。

見ているうちに、他のことをしたくなって気が散ってしまうことが多いそうだ。「この時間があればあと何ができるか」といつも考えてしまうという。倍速視聴だけでなく、「10秒飛ばし」を使って気になるところのみ見ていくというやり方もとっているそうだ。

違法な「ファスト映画」の被害額は950億円超

効率よく動画コンテンツを見るために人気となった方法の中には違法のものもある。「ファスト映画」をご存じだろうか。切り抜き動画と同様、映画を10分程度の長さに編集してあらすじがわかるようにした動画だ。映画の映像や静止画を使用し、字幕やナレーションを付けて作成されている。

切り抜き動画との大きな違いは、無断で公開しており、著作権侵害と営業妨害をしている点だ。ファスト映画はコロナ禍の巣ごもり需要で増えており、『シン・ゴジラ』『進撃の巨人』『スパイダーマン』など、多くの作品が被害に遭っている。投稿される場は、やはりYouTubeだ。

著作権を持つ映画会社などの団体であるコンテンツ海外流通促進機構(CODA)が調査したところ、2021年時点で少なくとも55のアカウントから2100本余りの動画が投稿されており、本編が見られなくなることによる被害は950億円以上という。

被害者の大手映画会社は損害賠償訴訟に踏み切った

感想や論評のために一部を引用的に使用するなら問題ないが、ファスト映画は無断で映像や静止画を使用し、ほとんどのストーリーを明らかにして作成されているため、著作権法違反に当たる。

2021年6月には、男女3人がファスト映画をYouTubeに公開したとして全国で初めて摘発され、著作権法違反で有罪が確定。動画は無料で閲覧でき、1000万回以上再生されて約700万円の広告収入を得ていた。

これに対し、大手映画会社など13社が総額5億円の損害賠償を求める訴えを起こしている。映画会社側は再生数1回あたりの損害額を200円と判断し、合計で20億円相当の被害があったとしており、5億円はその一部にあたる。

なお弁護団によると、200円という損害額は1週間のオンラインストリーミングで権利者が受け取る金額を基に算出したものだ。YouTubeの映画レンタルサービスの利用料は400円前後であり、30%のプラットフォーム手数料を引き、映画全編が公開されているわけではないための金額という。