部下に仕事の背景や意義を伝えることこそが上司の仕事

「部下がやる気を失う上司の言葉」3つのパターンは、いずれも「その仕事をなぜやるのか、どうしてそういう手段を取るのか」などの仕事の本質を考えたり伝えたりすることをいっさい行っていないケースです。

仕事のとらえ方でやりがいが変わる有名なたとえ話に「3人のレンガ職人」の話があります。

「何をしているのか?」と問われたのに対し、レンガ職人の1人は「見てのとおり、レンガを積んでいる。キツくて大変な仕事だ」と不平をこぼした。1人は「大きな壁をつくっている。これで家族を養えるのでありがたい」と答えた。もう1人は「歴史に残る大聖堂をつくっている。多くの人のためになる素晴らしい仕事だ」と目を輝かせたというものです。

「レンガを積む」という同じ行為も、その意味や意義、目的を理解するとまったく異なるものになるというものです。

3人目の認識のように、上司がすべきは部下に仕事の背景や意味・意義、めざすべき価値観などをしっかり伝え、共有することです。本質を理解すると、部下は指示されるまでもなく率先して最適な行動をとるようになり、創意工夫が生まれます。

たとえば、「クレド」を大切にすることで有名な外資系高級ホテルでは、各自の状況判断で、時には宿泊客の忘れ物を空港までタクシーで届けるというエピソードもよく知られています。そのような対応を可能にしているのは、自分の裁量で使える金額の基準があると同時に、自分たちのサービスに対する価値観や判断基準が強烈に共有されているからです。

常に原点に立ち返ることで会社は進化していく

価値観の共有に欠かせないのが、「ゼロベースシンキング(本質追求)」です。現状ある価値観や判断基準を伝えるだけでなく、同時にそれまでの常識を疑い、あらゆることを「ゼロベース」で考えることで会社は進化します。

松岡保昌『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版社)
松岡保昌『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版社)

そのためには、とくに他部署から異動してきたり、中途入社や新入社員などの、これまでの常識を知らない人の、新しい視点は大切にすべきものです。「どうしてですか?」「これはなぜ必要ですか?」などの素朴な疑問は、あらためて本質を問うきっかけになります。

常に原点に立ち返り、「ゼロベースシンキング」を習慣化することで、共有すべき価値観や判断基準を風化させることなく、進化させることができるのです。

また、価値観や判断基準を理解するだけでなく、「ゼロベースシンキング」が習慣化すると、自分の日常の仕事についても見直したり、その仕事の意義や価値についても考えるようになります。

自分の仕事が誰からバトンを受け取り、誰に渡っていくのかなど、仕事の影響の範囲やその大きさを理解することにもつながります。つまり、仕事の全体像を理解して仕事をするようになるのです。

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