日本の食は本当に安全なのだろうか。元農水官僚で、東京大学大学院教授の鈴木宣弘氏は、「輸入食品へのチェックがザル化している。遺伝子組み換え牛成長ホルモンは、日本国内では許可されていないが、使用しているアメリカの乳製品が輸入されている」という――。(第3回)

※本稿は、鈴木宣弘『農業消滅』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。

米中西部の酪農場で搾乳を待つ乳牛(米ミネソタ州ヘースティングズ)
写真=AFP/時事通信フォト
米中西部の酪農場で搾乳を待つ乳牛(米ミネソタ州ヘースティングズ)

牛乳生産量を20%も増加する「牛成長ホルモン」

成長ホルモン(エストロゲンなど)の肉牛への投与による牛肉への残留問題に比べて、乳牛に対する遺伝子組み換え牛成長ホルモン(rBST、recombinant Bovine Somatotropin。別名、rBGH、recombinant BovineGrowth Hormone)のことはあまり議論されていない。

アメリカではrBSTのほうが一般的な呼称だが、成長ホルモンに否定的な見解の人は rBGHと呼ぶ傾向がある。

だから、rBGHという呼び方をしていれば、否定的な見解の人だとわかる。

BST(牛成長ホルモン)は牛の体内に自然に存在するが、これを遺伝子組み換え技術により大腸菌で培養して大量生産し、乳牛に注射すると、1頭当たりの牛乳生産量が20パーセント程度増加するため(一種のドーピング)、牛乳生産の夢の効率化技術としてアメリカで1980年代に登場し、1993年に認可され、1994年から使用が開始された。

ただし、乳牛はある意味「全力疾走」させられて、搾れるだけ搾られてヘトヘトになり、数年で用済みとなる。

そのアメリカでも、1993年に認可されるまでに、人や牛の健康への悪影響や倫理的な問題を懸念する消費者団体・動物愛護団体などの10年に及ぶ反対運動があり、やっと認可にこぎつけたという経緯がある。