スターバックス・ウォルマート・ダノンが牛成長ホルモンを排除

ところが、事態は一変した。

rBSTが注射された牛からの牛乳・乳製品には、インシュリン様成長因子(IGF-1)が増加することはわかっていたが、1996年には、アメリカのがん予防協議会議長のイリノイ大学教授が、IGF-1の大量摂取による発がん・リスクを指摘して、さらには、1998年にも科学誌の『サイエンス』と『ランセット』に、IGF-1の血中濃度の高い男性の前立腺がんの発現率が4倍、IGF-1の血中濃度の高い女性の乳がんの発症率が7倍という論文が発表された。

この直後から、アメリカの消費者のrBST反対運動が再燃し、最終的にスターバックスやウォルマートなどが、自社の牛乳・乳製品には不使用にする、との宣言をせざるを得なくなり、rBSTの酪農生産への普及も頭打ちとなった。

そして、もうからなくなったとみたM社は、rBSTの販売権を売却するに至ったのだ。

このことは、自身のリスクを顧みずに真実を発表した人々(研究者)の覚悟と、それに反応して、表示をできなくされても、rBST入りの牛乳の可能性があるなら、その牛乳は飲まない、という消費者の声と行動が業界を動かしたということだ。

その点で、もう一つ注目されるのは、ヨーグルトなどで世界的食品大手のダノンが、rBSTだけでなく、全面的な脱GM(遺伝子組み換え)宣言をアメリカでしたことにあろう。

ダノンは2016年4月、主力の3ブランドを対象に、2018年までにGM作物の使用をやめると発表したのだ。

これまでは砂糖の原料のテンサイや、乳牛の餌となるトウモロコシなどにGM作物を使ってきたが、それ以外の作物に切り替えるという。

日本の酪農・乳業関係者も、風評被害で国産品が売れなくなることを心配して、rBST のことには触れないでおこうとしてきた。

これは人の命と健康を守る仕事にたずさわるものとして当然、改めるべきである。

むしろ、消費者にきちんと伝えることで、自分たちが本物を提供していることをしっかりと認識してもらう必要がある。

「TPPプラス」(TPPを上回る譲歩)の日米FTA(自由貿易協定)の第二弾が結ばれたら、rBST使用乳製品がさらに押し寄せてくる。

TPPレベルで、アメリカ政府の試算では日本への乳製品輸出は約600億円増加すると見込んでいる。

鈴木宣弘『農業消滅』(平凡社新書)
鈴木宣弘『農業消滅』(平凡社新書)

しかし、恐れずに真実を語る人々がいて、それを受けて、最終的には消費者(国民)の行動が事態を変えていく力になることを、私たちは決して忘れてはならない。

アメリカの消費者は、個別表示できなくされても、店として、流通ルートとして「不使用」にして、いくつかの流れをつくって安全・安心な牛乳・乳製品の調達を可能にした。

M社はrBSTの権利を売却した。このことは、日本の今後の対応についての示唆となる。消費者が拒否をすれば、企業をバックに政治的に操られた「安全」は否定され、危険なものは排除できる。

なぜ、日本はそれができず、世界中から危険な食品の標的とされるのか――。

消費者・国民の声が小さいからだろう。今こそ奮起のときである。

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