名は体を表すかもしれない

ケーラーの知見に基づいて、様々な研究がなされた。英語話者を対象にした研究だが、[takete]よりも[maluma]のほうが、「優しく」「平和的」で「友達になりやすそう」かつ「のんびり」と判断される。

また、女性名は「共鳴音を含んだ名前」が魅力的であり、逆に男性名は「阻害音を含んだ名前」が魅力的とされる傾向が観察された。

この「阻害音」=「男性」、「共鳴音」=「女性」という連想は、「サンリオ」のリトルツインスターズ(「キキ(♂)」と「ララ(♀)」)にも如実に表れている。

娘は幼稚園の年中のお遊戯会で『ライオンキング』の踊りで私を魅了してくれたが、「シンバ」(♂)と「ナラ」(♀)にも同じようなことが言えそうだ。

アニメ『CLANNADクラナド』で人生を学んだ人も多いと聞くが、登場する双子の「杏(きょう)」と「椋(りょう)」だと、「椋」のほうが大人しくて消極的な性格をしている。

ちなみに、私の妻は「ママ」派ではなく「かーちゃん」派である。先日ふと理由を尋ねてみたところ、「ママ」が持つ優しい響きがしっくりこないかららしい。彼女は母親として、優しさを喚起する共鳴音の呼び名ではなく、凜としたイメージを喚起する阻害音の呼び名を選んだということだろうか。

「さつき」にあって「やよい」にないもの

さて、ここまで来れば、私が「やよい」を推した理由がわかってもらえるだろう。「やよい」は共鳴音([j])しか含んでいない。一方「さつき」は阻害音([s],[t],[k])のみである。音象徴の観点だけから考えれば、「やよい」のほうが魅力的な名前と言える。

しかし、音象徴のみで名前を決めるべきかというと、それも極論と言わざるを得ない。「さつき」には「さつき」に込められた思いがある。「咲月」は、妻の「朋子」の「月」をひとつ受け継ぎ、花が「咲」く時期に生まれたというよろこばしい意味がある。

妹の「実月」も、もうひとつの「月」を受け継ぎ、木が「実」をつける頃に生まれたという家族の大切な記憶が込められている。しかも連濁までしている。どちらも共鳴音に溢れているわけではないが、素晴らしい名前ではないか。

妻と義母から大切なことを学ばせてもらった。音象徴が名付けのすべてではない。『魔女の宅急便』の「キキ」は阻害音のみだけども、やっぱり魅力的な女の子だ。

とは言いながらも、やっぱり名前における「共鳴音」と「阻害音」の偏りは気になるので、最近は授業の履修者名簿が届くと、どんな「共鳴音の女子学生」とどんな「阻害音の男子学生」が授業に来るのかまず確認してしまう。そして、授業では「共鳴音」と「阻害音」の違いを学んでもらうために、学生に自分の名前を音象徴の観点から分析してもらう。

みなさまも、自分の名前に含まれる子音がどれくらい魅力的か考えてみてはいかがだろう。きっと「共鳴音」と「阻害音」の区別を学ぶよい練習になるはずだ。ただし、自分の名前が音象徴的にイマイチだからと言って、くれぐれもご両親をとがめないでほしい。きっとみなさまの名前にはそれぞれ込められた思いがあるのだから。

別に将来、咲月が本書を読んだときに怒られないよう、予防線を張っているわけではない。