これに加え、島国・台湾の急峻きゅうしゅんな地形が天然の要塞ようさいとして機能し、中国軍を大いに疲弊させるだろう。

AFPによると、米シンクタンク研究員のイアン・イーストン氏は台湾沿岸部の地形について、「防衛側にとって夢のよう」な形状だと語っている。台湾には上陸に適した海岸がわずか14カ所しかなく、さらにこうしたポイントの多くが山や崖に囲まれ、あるいは防衛に適した都市インフラに近接しているためだ。

台湾の首都台北市の風景
写真=iStock.com/Jui-Chi Chan
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さらにAFPは、米防衛大学のネイバル・ウォー・カレッジによる分析として、大規模な侵攻に適する期間は毎年5~7月と10月の2回しかないと報じている。海峡は最も狭いポイントでも幅130キロほどあり、その特性は半ば外洋にも近い。年2回のモンスーンの時期を含め、季節による荒天の影響を大きく受ける。

また、コンパクトな国土をもつ台湾だが、その地形は湿地帯に山林、そして都市部の人口密集地とさまざまだ。中国軍がこれらの地域で抜かりなく戦闘を展開するためには、複数の地形に対応できるだけの大量の兵器を中国本土から輸送し、さらにそれらを使いこなせる訓練された兵士を輸送することが不可欠だ。弾薬と食糧の供給も問題となるだろう。

戦略国際問題研究所のボニー・リン上級フェローはAFPの取材に対し、「上陸だけが問題ではないのです」「配備され進軍するとなれば、部隊をどうやって維持するのでしょうか。兵站へいたんはどうするのでしょうか」と問題を提起し、台湾攻略の難しさを強調した。

ノルマンディー上陸作戦並みの被害予想も

大西洋評議会はこうした事情を念頭に、「単純にいって中国は、上陸による全面的な台湾侵攻を近い未来に決行できるだけの軍事能力と規模をもたない」と分析している。ただし、射程2000キロ以上におよぶDF-21準中距離弾道ミサイルなどを仮に中国が投入したならば、増援到着までの2日間ほど、台湾は厳しい戦いを強いられるだろうとも指摘している。

いずれにせよ、ひとたび台湾攻撃が発生したならば、両軍への多大な犠牲は避けられそうにない。CNNは「多数のアナリストら」による理解として、台湾侵攻は歴史上悪名高いノルマンディー上陸作戦を超え、「非常に危険かつ入り組んだ」武力衝突になるとの見方を伝えている。

第2次大戦中にアメリカ軍など連合国がドイツ占領下のフランス・ノルマンディー海岸への上陸を目指したノルマンディー上陸作戦は、3カ月という長期にわたり展開し、両軍計約50万人の死者・不明者を出した。仮に台湾への上陸作戦が決行されたならば、台湾のみならず中国側の犠牲者も相当な規模に上る公算だ。