人は立場や待遇が変わっても、そこでその人独自の能力が生かせることが実感できれば、落ち着いて仕事に専念できるものだ。したがって若い上司の側も、元上司が専門職として能力を発揮しやすい環境を整えることで、無用な軋轢を抑止することができるだろう。

2007年度 企業の再雇用状況
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2007年度 企業の再雇用状況

今後は年功序列制の縮小と再雇用の拡大によって、こうした問題に直面する機会がますます増えていくだろう。年齢という秩序によって、人を整然と統治していくやり方に受け入れやすい点があるのは否めないが、世界の中でここまで年功序列が徹底しているのは日本くらいのものだし、その日本にしても戦後から近年に至るまでのごく一時期に徹底されていただけで、古往今来、年功序列制がスタンダードだったわけではない。

私自身は、初めて部下を持ったのが埼玉銀行(現りそな銀行)のロンドン支店にいたときで、部下は全員イギリス人の女性だった。その後2度にわたってアメリカにも赴任したが、アメリカでは年齢によって待遇を決めるということをしないので、やはりこちらも日本的な組織とは大きく異なる環境だった。その経験があるからか、多様な人材を部下に持つことにとりたてて抵抗は感じない。

もっとも、多様性に富んだ組織を動かしていくうえでの、自分なりのルールはある。それは誰に対しても同質の情報を与えることだ。だから私の話はその場が新入社員の研修会であっても、部長会議であってもまったく同じで、相手によって変えたりはしない。もちろん、理解できるかどうかは聞き手の理解力や問題意識によって違ってくるが、各自が自分の立場から話を咀嚼し、行動に結びつけてくれればいいと思っている。

情報の与え方を制限することで、一種の分断統治のようなマネジメントを試みる人もいるが、それはあまりに狭量な考え方で、結果的に組織の活力を弱めてしまうだけだ。部下となった元上司には、敬いつつも他の社員と同じように公平に接するという態度を貫けばよい。それでうまくいかないのなら、あなたの責任ではなく、元上司の責任なのである。

(石田純子=構成 澁谷高晴=撮影)