「一斉清掃」で追い出されたホームレスたち
ただし、こうした現象は最近始まったわけではない。20年近く前、すでに筆者は『過防備都市』(中公新書ラクレ、2004年)を上梓した際、都市のフィールドワークを通じて、排除アートというべき物体の登場を確認した。
有名な作品(?)としては、新宿西口の地下道でホームレスを排除し、動く歩道を整備した後、1996年に設置された先端を斜めにカットした円筒形のオブジェ群や、渋谷マークシティ(2000年)の東館と西館のあいだのガード下(井の頭線の改札前)において小さな突起物が散りばめられた台状のオブジェなどが挙げられるだろう。
半径45センチ、高さ40センチほどの「オブジェ」と呼ばれる572個の円筒形の物体は、市民派と言われ、すでに着工していた世界都市博を中止した青島幸男都知事の時代に出現した。
なお、ホームレスの追い出しは、「環境整備」や「一斉清掃」という名目で行われた。しかし、「路上廃材撤去作業」の一環だったから、無人のダンボールハウスの撤去は強制排除ではないという東京都の主張に対し、1997年の東京地裁の判決では、「簡易な工作物で現に起居の用に使われていた。廃材ということは出来ない。……警察官によって排除、連行され一時的に無人になっていたのにすぎない」から、正当な法手続きなしでの執行には落ち度があることが言い渡された(新宿連絡会編『新宿ダンボール村 闘いの記録』現代企画室、1997年)。
路上の使用をめぐるホームレスと自治体の争い
もうひとつの渋谷の「ウェーヴの広場」は、ホームレスを追い出すために、床を波形にしたところ(おそらく、これが名称の由来か)、その上に何枚もダンボールを敷き、居場所をつくったらしい。その結果、ダンボールを突き破る突起物が付加されるのだが、これらも引き抜かれてしまう。最終的には補強し、抜けないようにして、まわりもチェーンで囲まれた(画像4)。
つまり、「広場」という名前をもちながら、人の滞在を拒絶しているのだが、排除アートの投入によって、路上の使用をめぐる争いが行われていたのである。また銀座の地下通路では、すでに2000年代から柱と柱のあいだに干支にちなんだ動物の彫刻が並んでいたが、大きなプランター、柵とチェーンを併用していた。かわいらしい外観からは想像しづらいかもしれないが、おそらく人の滞在を許さないために、設置されたものだろう。
公園では、ウサギ、クマ、キリンなどの動物のキャラクターを立体化したオブジェをベンチのど真ん中に付加したケースがある。これも一見、無邪気な造形ゆえに、排除という目的を想起すると、かえってグロテスクに感じられるだろう。