維新は今夏の参院選の目標として立憲から野党第1党の座を奪うことを最優先に掲げた。「打倒・自民」よりも「打倒・立憲」を全面に打ち出す戦略である。野党第1党に真っ向から挑戦する第三極・維新の登場で、立憲は自民党と政権を競い合う野党リーダーの座から滑り落ち、政権交代のリアリズムは消失。立憲はますます求心力を失い、野党分断が加速するという悪循環に陥っている。

維新を下支えして野党を分断する政界工作を主導してきたのが自民党の菅義偉前首相だ。菅氏は橋下氏を大阪府知事に担いだ時から松井一郎・維新代表と濃密な関係を維持してきた。自民党内に自前の派閥を持たない政治基盤の弱さを維新という外部勢力とのパイプで補い、政局の主導権を握ってきた。

菅氏が安倍内閣の官房長官として権勢を誇り、さらに首相へ上り詰めて退陣する昨秋まで、維新は首相官邸の威光を背景に党勢を拡大してきた。まさに「菅氏の補完勢力」だったのだ。

見直しを迫られる「菅頼み」の維新の戦略

岸田政権が誕生して菅氏が非主流派に転落すると、維新は首相官邸という強力な後ろ盾を失った。昨年の衆院選で躍進したものの、岸田内閣の支持率が上昇するのとは裏腹に、維新の支持率は下降し始めた。

松井氏や吉村氏を過剰に報道する在阪テレビ局への批判、人口あたりのコロナ死者数が突出する大阪府政への批判、税金を投入しないと明言してきたカジノ構想への公金投入の発覚、所属議員の経歴詐称疑惑など相次ぐスキャンダルなどが次々に追い討ちをかけた。

岸田政権下で吹き荒れる維新への逆風は、この第三極政党の勢いが菅氏が牛耳る官邸権力に支えられてきたことを浮き彫りにしている。

岸田政権のキングメーカーである麻生太郎副総裁は財務省を軸とした政権運営を進め、規制緩和や民営化を重視する菅氏や維新とは政敵関係にある。麻生氏を後ろ盾とする茂木敏充幹事長は大型連休中に大阪を訪問し、維新について「昨年の衆院選では圧倒的な勢いが見られたが、今回は率直に言ってそういうものは感じなかった」と自信をみせた。

岸田政権の「菅外し」「維新冷遇」は明白だ。維新は「菅頼み」の戦略の見直しを迫られている。

「自民・麻生氏の補完勢力」になった連合と国民民主党

維新を味方につける菅氏に対抗し、麻生氏や岸田首相が取り込もうとしているのが連合と国民民主党だ。

連合の芳野友子会長は昨秋の就任以降、立憲民主党が共産党と共闘したことを激しく批判して野党と一線を画し、麻生氏ら自民党幹部との会食を重ね急接近した。今夏の参院選では立憲・国民の両党を支援してきた従来の方針を転換し、候補者ごとに判断する方針を決定。野党を見切り、与党ににじり寄る姿勢を隠さない。