世界一高いタワー、世界最大の人工島……世界の富裕層が集まる中東ドバイ。経済特区では100%外資系企業の設立も認められ、法人税はなしで、所得やドバイの不動産取得には課税されない。そうした優遇措置を得るため、現地に移住する日本人が増えているが、先に移住している日本人から詐欺の被害に遭うことも多いという。4月下旬に現地を訪れたフリーランスライターの東野りかさんがリポートする――。

今年のラマダン期はいつもと様子が違う

18時40分を過ぎた頃だったか。アラブ首長国連邦(UAE)を構成する首長国のひとつであるドバイの郊外を車で走っていた時のこと。車内のラジオ放送からは、日没とともにアザーン(お祈りの合図)が聞こえてきた。

運転をしていた中東大手航空会社勤務のA氏(40代)は、とあるファストフード店の前に車をとめ、お祈りを素早く行い、その後ペットボトルの水と軽食を買ってきた。同乗していた妻とともに、ゴクゴクと喉を鳴らし、瞬時に水を飲み干してしまう。

「今のお祈りは隣のシャルジャ首長国の放送だよ。ドバイより数秒だけ早く始まるから、待ちきれなくてね(笑)」とA氏。

筆者が訪れたのは2022年の4月下旬。今年は4月2日から1カ月間がラマダン(イスラム暦の9月)にあたり、ムスリム(イスラム教徒)の義務として、日の出から日没までは食べ物も水も一切口にしない。

それゆえ、A夫妻は一刻でも早く喉の渇きを癒やしたかったのだ。ドバイの東隣にあり、ほんの少し早く日が沈むシャルジャ首長国の放送を断食終わりの合図にしたというわけ。

富裕なドバイの象徴、世界一高いタワー「バージュ・カリファ」
富裕なドバイの象徴、世界一高いタワー「バージュ・カリファ」(筆者撮影)

イスラム暦(太陰暦)を使用しているので、ラマダン期は毎年10日ほどずれてくる。10年前であれば、7月から8月だったので、日中は50度近くに気温が上がり、しかも太陽が昇っている昼の時間が長い。この時期に水が飲めないとは文字通り地獄ではないか……。

「それを思えば4月のラマダンはそれほどハードではないです。といっても4月も日中は38度ぐらいまで気温が上がりますけどね。最初の1週間は大変だけど、そのうち体が順応しますよ」と妻はくったくもない。その一方で、

「ラマダン期のムスリム社員の仕事のパフォーマンスはやはり落ちます。イライラしたりボーッとしたり。私はイスラム教徒ではないので、日中は食べていいのですが、断食をしている社員に気を使って、彼らの目の前で飲食しないようにしています」

そう語るのはドバイ在住歴24年の平井あかねさん(48)。ドバイで企業の展示会運営や会社設立のサポート、レンタルスペースのサービスを提供する「Hub Mebki」の経営者だ。

ラマダン期の会社員は午後3時ぐらいで仕事を終え、ムスリムは家で休むらしい。そして日没後は「イフタール」といって、いつもより豪華な食事を思い切り楽しむ。A氏の自宅でも、親戚や友人が集まって賑やかに過ごしていた。