プーチン大統領はなぜウクライナ戦争を始めたのか。軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんは「ソ連崩壊後の苦難の時代を経験した国民に民族主義・愛国主義を訴え、支配下のメディアを通じて国民を洗脳している。そのためいまだに支持率も高い。一連の政治手法はナチスドイツのヒトラーそっくりだ」という――。

※本稿は、黒井文太郎『プーチンの正体』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

ウクライナとロシア革命
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プーチンもナチスも侵攻の口実は「同胞を守るため」

プーチンの人生を振り返ってきて明らかなのは、彼は「ヒトラーと似ている」ということだ。

プーチンはウクライナを攻撃する際、「ウクライナ政府はネオナチ」としばしば表現する。そして「ネオナチによる弾圧からロシア系住民を保護しなければならない」と言って、ウクライナを攻撃する。これは最近思いついたものではなく、2014年のクリミア侵攻の時からずっと言い続けている。

しかし、実際にプーチンがやっていることこそナチスと驚くほど似ている。とくにその類似性が指摘されたのが、「同胞を守るため」という侵攻の口実だ。

ロシア統治そのものがナチスの手法の再現といえる

プーチンは2022年2月24日、侵攻開始にあたって「ウクライナ東部のロシア系住民を守るために特別軍事作戦を命じた」とした。それに先立って、同年2月21日にウクライナ東部のロシア軍の配下の親ロシア派民兵が支配している自称国家の独立をロシア政府が公式に承認し、その自称国家政府にロシアによる軍事介入を要請させた。ロシアだけが認める「正式な政府からの要請による出兵」というわけだ。

この「同胞を守る」との口実で他国を侵略する手法は、かつてヒトラーも、欧州侵略を始めた頃の1938年に実行している。チェコスロバキア(当時)のズデーテン地方に住むドイツ系住民の自治運動を扇動し、域内のドイツ系住民を保護するとの名目で同地域を併合し、その勢いでチェコスロバキア全体を制圧したのだ。

それだけではない。実はその他にも、プーチンのロシア統治そのものがナチスの手法の再現といっていい。前述したように、カギとなるのは「民族主義・愛国主義の扇動」と「メディア支配による国民洗脳」だ。